「陽炎型」+「白露型」で、今日的クォリティの1/700「朝潮型」をつくる: 後篇

アオシマ「陽炎型」とフジミ「白露型」の二個一による「朝潮型」の後篇。
実のところ、前篇の工作だけでも「朝潮型」以外の何物にも見えない状態にはなるのだが、それでは物足りない人向けの重箱の隅拾遺集


重箱の隅その1・舷窓

元となる「陽炎」のキットからして舷窓が省略されているので、コレクションモデリング派の人は思い切って省略しても良いと思う。特に左舷の舷窓なんて図面に無いから判らんし……ではあまりにアレなので、一応右舷図面と写真から判定した舷窓の位置が下の写真。

「朝潮型」の推定舷窓位置左舷については写真による推定のため確度が低い。

駆逐艦に限らず艦艇の舷窓って非対称なものが多く、特に艦内に余裕が無い小型艦ほどその傾向は顕著
なぜ大型艦はそうでも無いか、と云うと、窓際に割り当てられる居室にせよ食堂にせよ、人数が多ければ同じ形の部屋を左右対称に置けるから。
それが駆逐艦クラスだと片舷は士官室で反対舷は兵員室、の様な配置はザラなので、舷窓も非対称になってしまうのだ。

100%ではないが居室の上にくる甲板は基本的にリノリウム張りなので、舷窓も概ねリノリウム敷きの場所の側面にある

重箱の隅その2・ボートダビット

いつもなら、機銃や前後マストなど整形の都合で太い箇所は自作したり社外品に置き換えたりするのだが、今回は二個一でどこまで似せられるか、と云うのを明確にするため、全てキットパーツを使い素組「風」に仕上げている。

ただ、太いなりに多少手を入れている。
例えばボートダビット、「白露」のキットのままでは太いだけでなく高さもありすぎるので、脚を切り詰め高さを抑えている。駆逐艦の場合、各社のキットとも最大公約数的なサイズのものを共用している場合が多いのだが、実物は意外と高さがマチマチである。

フジミ「白露型」のボートダビットを「朝潮型」にシェルターデッキ上のダビットの方が背が低い。

幸い、キットパーツにせよ、ナノ・ドレッドやピットロードのものにせよ、基本的には長すぎる場合が殆どなので、切り詰めだけで済むことが多い。
ダビットそのものは殆ど主張しないパーツだが、そこに吊られる短艇の高さは意外と全体の重心に与える影響が大きい

「白露型」のボートダビットとフジミのキットとの比較元キットの「白露」と公式図面の比較。ダビットが高すぎると、視覚的な重心位置が上がり、不安定に見えてしまう。

重箱の隅その3・13mm連装機銃

また、「朝潮型」を二個一する際にネックとなるのが機銃で、大戦後半は「陽炎」「白露」とも潤沢に25mm三連装が入っているので問題ないのだが、大戦前半に「朝潮」以外の各艦に装備されていた13mm連装はいずれのキットにも含まれない。

社外パーツを持ってきても良いのだが、今回のようにマストをキットパーツのままにしている場合、機銃だけ細いのにも違和感がある。そこで、「陽炎」Xランナーの25mm連装機銃を加工して、同程度の解像度の13mm連装機銃を作ってみた

25mm連装機銃から、13mm連装機銃を作る 似せるポイントは、全体のサイズよりも座席の位置。25mmは両脇、13mmは後ろに椅子がある。

コレクションのディテールの基準をXランナー・Wランナーに合わせている方であれば、下手に社外品を使うよりこの方が25mmと混載した時など馴染みが良い筈。

より完全を目指すなら

「日本海軍小艦艇ビジュアルガイド 駆逐艦編」でも指摘されているが、フジミ「白露」の欠点として、煙突断面が似てないと云うのがある。
そもそも断面形が判る写真も少ないので、気にならない人は全く気にならないと思うのだが、一度知ってしまうと割と目立つ。
「朝潮型」とする場合でも、側面はキットより緩やかな曲面が正しいので、より正確を期するなら幅増しの後、側面を板ヤスリでやや扁平に整形してやると良い。

「朝潮型」「白露型」とフジミ「白露」の煙突比較この違い、あなたは気になる?

また、後部次発装填装置と2、3番砲は「陽炎型」のままでは1mmほど後ろ寄りで、その結果、舷窓や艦尾防雷具 (パラベーン) との位置関係が狂ってしまう。
先の図では各要素を少しずつずらして辻褄を合わせているが、もし切った貼ったに抵抗が無いなら、缶室ケーシング撤去のついでに、次発装填装置と主砲基部をエッチングソーなどで丁寧に切り取り、前にずらしてやるとより正確なシルエットになる。
手間対効果の面では微妙 ()

2番砲周りではもう一つ、2番砲から後檣基部にかけての最上甲板上の構造物、前掲の図解ではサイズ感の近い「白露型」のキノコ型吸気筒を置いているが、実際には魚雷調整台
「荒潮」の図面では直方体が描かれているが、鮮明な写真は見つけられず、また同形艦でも微妙に相違があるように見えて謎が多い。ここは拘り始めると収拾がつかなくなる気がする。

「朝潮型」の後部甲板室付近魚雷調整台、図面上では直方体だが……。

「朝潮型」の後部甲板室付近……写真ではキノコ型に見えると云う謎。

塗装

今連載中の「天龍型」では船体にダークシーグレーを使っていて、中々お気に入りだったのだが、現行品は私の手持ちから色が変わったらしく、いささか明るすぎる。
そこで、鉄道カラーの「ねずみ色1号」を使ってみた。現物の「ねずみ色1号」は修正マンセルN 5相当らしく、鉄道カラーも見事にそれを再現している。

鼠色 N5 ガイアノーツ 鉄道カラー 1005
ねずみ色1号

また、クレオスやガイアの原色系グレーが光沢なのに対し、こちらは半ツヤなので、艦艇用にはかなり使い勝手が良い。ウィーゴに続き、最近鉄道カラーで使えそうな色を発掘するのが楽しい。

アオシマ「陽炎」+フジミ「白露」による「朝潮」誌面映えを意識して、鉄甲板のコントラストを強めに。

リノリウムや艦底色はいつも通りの自家調合ブラウンと特色サンダーバーズの赤。
鉄甲板部は無塗装亜鉛鍍金鋼鈑の表現として「鼠色」よりやや暗いグレーとしたが、「天龍」の時、船体の「鼠色」との差が弱く写真映えしなかったので、やや暗めにして明度差を強調してみた。
肉眼で見ると多少くどいのだけど、HJ誌の写真では狙い通りの写りで、まあ一種のステージメイクのようなものである。

アオシマ「陽炎」+フジミ「白露」による「朝潮」完成状態を左舷から。舷外電路は「陽炎型」からの推定。

流石に素材上の限界はあるものの、特にアオシマ「陽炎」は主砲やマストの基本形状の把握が秀逸で、改めてキットの素性の良さを感じた。ただ、金型がくたびれてきているのか、船首楼のフレアに沿って派手にヒケているので、もし同じことを試みる方が居られるなら、船体側はフジミ「雪風」でも良いかもしれない。

アオシマ「陽炎」+フジミ「白露」による「朝潮」完成状態を前から。主砲はキットのままだが、砲身が太いのを活かして砲口を開けている。

ただし、フジミ「雪風」は大戦末仕様に特化したパーツ構成なので、大戦前半仕様で作ろうとすると前檣や2番砲など、キットだけでは揃わない部分が出てくるので注意。
大戦後半仕様で作る場合や、最初からアフターパーツや自作上等! な方はフジミ同士ニコイチを検討されたし。そして、結果を教えていただけると幸い。


今回は私にしては珍しく、考証を終えてから1か月ほどで完成している。
基本的に2つの素材キットの中身だけでつくる、と云う縛りが良かったのかもしれない。

まあ、逆にディテールアップもしてないのに1か月も掛かったの……? と云われると、返す言葉もないのだけれど ()

「「陽炎型」+「白露型」で、今日的クォリティの1/700「朝潮型」をつくる: 後篇」への6件のフィードバック

  1. こんにちは由良之助です。挙動不審でも「荒潮」はしっかりと拝見しましたので前回の続きです。
     
    現物の「荒潮」も「天龍」「龍田」同様の空気感で燕雀洞スタンダードであります。仔細に見てみると艦尾旗竿が格納され、ガフに戦闘旗を掲げていることと併せて艦の「状態」を示す表現なっています。

    鉄甲板部分が船体よりも暗い色調になっているのが目を引きます。私は無塗装油引き鉄甲板の表現なのかもと感じましたがブログによりますと立体感を強調するためのようです。たしかに昔の工作ガイドには『甲板を暗めにして立体感を強調・・』というようなことが書いてありましたが、理屈はわかっても実行するには度胸が必要で、センスが無いと違和感ばかりで・・・。
    この「荒潮」は誌面掲載を考慮してコントラストを強めにされたとのことですが(プロモデルライターらしい!)ナマで見ても極く自然に感じられ、こういったところが『色彩の魔術師』たる所以でしょう。
    船体色はクレオスの軍艦色ではないだろうとは感じましたがアレはねずみ色1号だったのですね(さんざん使っている色ですが気付きませんでした)。自家調色では二度と同じ色を出せない身であまり文句も言えませんがロット違いによる色味の変化は悩ましいです。グリーンマックスの鉄道カラーではビンとスプレーではだいぶ違っていることがあります(過去にはあまりに違うというので回収騒ぎになったことも・・)。鉄道カラーのグレー系は半ツヤであることと青味の少ないことで使い出のある色であるのは事実であります。

    HJ誌の写真を見てもわかることのような気もしますが写真と現物では視線のもっていきかたが違うのかとも思えます。やはり模型は眼球で見るに限るということで、拝見しに行ったのは大正解でした(お会いできたこともありますし)。
    大変な長文になってしまい申し訳ありませんでしたが、それだけ語りたくなる内容の詰まった模型である、ということです。

    またメールアドレスが変わっていますが、春園燕雀様よりGmailがお薦めであるという助言をいただいたのでこちらも作りました。ツイッターにくっついているアドレスもこちらに変更しております。

    1. いつもコメントありがとうございます。
      すみません、文章表現がまずかったようで、仰る通り「無塗装油引き」の表現として鼠色とは変えているのですが、「天龍型」の際も同様に油拭き表現で一段暗くしていたものの、誌面ではほとんど判らなかったために、より明度差を強調してみたのです。
      次回更新の際、ちょっとうまい表現があれば書き換えます。
      グリーンマックスはMr. カラーと同じく藤倉製だったと思うのですが、Mr. カラーもロットでかなり色が化けるので、あの価格帯で抑えようとするとそうなってしまうのかもしれません。
      今回はGMではなくガイアですが、ガイアは多少割高な分、微細な色再現には長けている印象があります (何分新興ブランドなので、5年、10年先でなければ確定的には云えませぬが)

      旗の件などもそうですが、由良之助さんの感想はまさに私が意識的に注力している箇所を的確に見てくださっており、作者冥利であります。
      ではでは。

  2. こんにちは由良之助です。甲板色の件ですが、ブログ全体を読めば鉄甲板色=亜鉛鍍金鋼板が燕雀洞スタンダードであることは自明ですので、単に私の眼が節穴だったというだけのことでした。
    そのような人物でも『的確に見』ることが出来るのは作品の構成が『的確』になされているということなのだと思います。

    ツイッターでFモデルの「とび色」がリノリウムに使えそうということを書かれていましたが鋭いところを突いてくると思いました。Fモデルカラーは手元に無いので手持ちの(かなり古い)ピットロードのリノリウム色と(とんでもなく古い)Mrカラーのとび色2号を比較してみたところ、とび色のほうがやや明るくオレンジ寄りの色味ですが彩度はほぼ同じ・・と見ました(これは私の直感ですのでアテにはなりませんが)。
    Fモデルのねずみ色もとび色も同スケールの鉄道模型に使う前提で作られていますから、船体色にねずみ色を使った場合のバランスは悪くないと思います(とび色とねずみ色の組み合わせのカラースキームは鉄道車両では無い様ですが・・)。
    なお、Mrカラーのとび色は廃番ですが「エヴァカラーのアスカの髪の色」が全く同じ色だという話を聞いたことがありますが真偽は不明です。

    「天龍型」編がラストを迎えたようでおめでとうございます。次は「三笠」編でしょうか?

    1. こんばんは。感想ありがとうございます。
      鉄甲板の説明ですが、ブログ全体を通して読まないと意味が通らないのは、やはりウェブに公開する文章として宜しくないので、表現を多少弄りました。
      こうしたご指摘を頂けるのは嬉しいです。書き手目線だと、どうしても総て判った上で筆を走らせているので、このような問題は見えにくいですから。
      Mr. カラーのとび色2号は私も愛用していましたので、定番落ちが惜しまれます。
      まさに由良之助さんと同じ見解で、ピットのリノリウム色を入手した時、これに空気遠近法を加味して白を混ぜた状態に近い色を……と探してたどり着いたのが、とび色でした。
      Fモデル、アマゾンやヨドバシで取り扱ってくれると、地方住まいでも入手できるのでありがたいのですが、まだ新興ブランドとの事でどうなりますやら。

      「三笠」は、春~夏で暫くスランプだったのの肩慣らしなので、紹介するとしたら「嵯峨」の時のように前後編でサラッと触れる程度で良いかなあと。
      フネモノで本腰入れて進めてるものだと、「有明」「夕暮」「有明原案」がありまして、このあたりは資料がまとまり次第連載始めようかと思っています。

      それではまた。

  3. こんばんは、老猿です。
    いつも拝見しています。
    さて、記事の中に煙突の断面形状を「写真日本の軍艦 別巻2 海軍艦艇図面集II」の図面を参考にして比較しておられます。
    この図面集は公式図を写したものなのですが、そのままトレースしたものでは無いようでオリジナルとは違っている所が見受けられます。
    この荒潮の前部煙突断面は、オリジナルの公式図ではきれいな楕円形をしており、試しに白露型の時雨と重ねてみましたら形状大きさともにほぼ同じでした。
    また基部の缶室給気口も後部は丸く、後端にほんの少しだけ直線部があるものの無視できるほどのものです。
    後部煙突はほぼ同じですが側面には直線部は無く、きれいな卵形となっています。
    そこまでこだわることは無いと思いますが、一応参考までに。
    左舷の舷窓ですが、艦内側面には描かれていますし、諸甲板平面にも描かれています。
    ただ、これらは揃っていることが少ないですし、一般的に需要が少ないので図面集には収録されにくいものですからやはり写真からの判断しかないですね。
    ちなみに荒潮は一式残っているようです。

    「写真日本の軍艦 別巻2 海軍艦艇図面集II」の荒潮の図面にはあるものが省略されています。
    私のブログにて、来年最初に紹介しようかと思い図を描いている最中です。

    1. 老猿さま
      ご指摘ありがとうございます。確かに、中央部の基本レイアウトが酷似していることから見ても、朝潮型と白露型がほぼ等しい煙突断面である、と云うのはしっくりきます。
      残念ながら、元図を入手する術がないので記事中図版の改訂はできませんが、こうして文字情報として判るだけでも、同様の工作を試みる方の助けになると思います。

      左舷の舷窓、今日の話題社の図面集収録艦では諸甲板平面から判明するものが多いのですが、原書房や学研本だと平面図と右舷のみのパターンのものも多く、写真頼みになる場合が多いです。この辺りは金と時間を掛ければある程度手に入る情報もありますが、なかなかいち貧乏人の手に余るレベルのものが多く、もどかしい限りです。

      朝潮型は現存する写真も少なく、情報を求めている人多いでしょうから、図版公開の折には当方からもリンクさせていただければと思います。

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