基本形状は史実に忠実に – 1/700峯風型を架空艦化する: 前篇

先日、ツィッタァ上で航空駆逐艦コンペというものが自然発生的に盛り上がって、面白そうだったので私も参加してみた。
架空艦は以前から興味はあったのだが、作るのは初めて。さて、どうなることやら。


対潜ハンターキラーグループの眼

設定を考える。
まず、ベースになる艦はピットロード「峯風型」。これは単に、自分が一番好きな艦級で、手元にストックが潤沢にあったから。
この時期の「峯風型」は第一線を退き、船団護衛やトンボ釣り、警備にあたっていたので、そのあたりで使うなら、対潜哨戒に飛行機が役立ちそうだ。
前線でバリバリ敵主力を刈るのはこの艦級には似合わないし、個人的にも好みではない。

搭載機には陸上機と水上機があるが、陸上機前提で全通甲板を乗せると駆逐艦らしさが損なわれる気がするので、水上機とする。そのうち、駆逐艦クラスでも無理なく扱えそうなのは潜水艦運用実績もある零式小型水偵だろう。これなら分解もできるので格納庫的にも便利だ。

とすれば、同クラスの旧式駆逐艦でハンターキラーグループをなし、その眼となるのはどうか。航空駆逐艦を司令駆逐艦とし、対戦兵装を強化した制圧担当艦と組ませると絵的に面白そう。
魚雷兵装を全廃したスペースに、航空駆逐艦は航空兵装を積み、制圧担当艦は両舷に爆雷投射機をズラリと並べる。

想定とする艦は「羽風」。元はトンボ釣りで、その後船団護衛に転じて、1943年 (昭和18年) 1月に敵潜の雷撃で沈んでいる。もしこの時沈没せず大破にとどまり、修復の際に航空駆逐艦化されたら、と云う想定でいこう。名前の字面も航空駆逐艦にふさわしい。

ピットのキットは基本形を直す処から

ベースキットは前述のとおりピットロードの峯風。前世紀末の発売でもう20年は経つベテランキットだ。航空駆逐艦化する前に、まずは基本形がらしくないので、そこから手を入れる。

「峯風型」と云えばタンブルホームだが、キットは上下抜きの一体成型のため逆に下すぼまりの断面になってしまっている。一般計画要領書[1] や「秋風」と「三日月」の一般艤装図[2] [3] から割り出した値との差は下表のとおり。

実物 1/700換算 キット実測 差異
※1「睦月型」の逓減値からの推定
※2 厳密には異なるが、最大幅の値を代用
※3 計画時と戦時の喫水差を、計画時の乾舷の値に加減
全長 102.5652m 146.5mm 146.4mm -0.1mm
上甲板幅 ※18.4074m 12.0mm 13.0mm +1.0mm
水線幅 ※28.9154m 12.7mm 12.0mm -0.7mm
前部乾舷 ※35.2692m 7.5mm 8.5mm +1.0mm
中央部乾舷 ※32.5843m 3.7mm 4.2mm +0.5mm
後部乾舷 ※32.7542m 3.9mm 4.3mm +0.4mm

実物との差異が最も大きいのは乾舷で、前部・中央部・後部のいずれも12~3%ほど高い
また、水線幅は6%狭く、上甲板幅が8%広い。乾舷に比べると差異は少ないが、前述のとおり、実物が水線幅>上甲板幅なのに対してキットでは上甲板幅>水線幅と関係が逆転しており、船腹のタンブルホームが再現されていないのが数値の上からも判る。

乾舷の修正は容易で、船底板省略でちょうど0.5mmほど乾舷が下がる。船首楼だけは更に0.5mm下げたいので、船体と船首楼甲板の接着面で0.5mm詰めた
船体幅は、下を太らせ上を削る。船体両脇に0.5mmプラ板を貼り、水線部分の最大幅をそこに合わせつつ、上甲板はキットの縁のモールド分ほど削り込む

「秋風」の上部平面: 1944年(昭和19年)
公式図との平面形比較。抜きの関係でタンブルホーム部分までフレアになっており、幅広な印象。

フレアとタンブルホームの切り返し点は艦橋側壁あたりで、そのあたりがちょうど垂直になるイメージで。寸法的には0.3mmずつの幅ましで良いのだが、ラインを整形してゆくうちに少しづつ最大幅も削れてしまうのと、タンブルホームを強調したかったので、0.5mmずつとした。

「澤風」のタンブルホーム: 1945年(昭和20年)
舷側の汚れの流れ方で傾き加減の変化が判るはず。[4]

船首楼もやはり幅広でかつ短い。なんかプラナリアっぽくてイヤ ()
「秋風」一般艤装図[5] から読み取った推定値との比較は下記の通り。

実物 1/700換算 キット実測 差異
船首楼甲板長 18.5420m 26.5mm 25.0mm -1.5mm
船首楼幅 8.3058m 11.8mm 13.1mm +1.3mm

前述のとおり船首楼は幅広かつ短めで、特に横幅が1割以上太いのが印象を損ねている。
幸い、先の乾舷の修正で船体側の接着面を詰めると、横幅も併せて縮んでくれるので、フレアのラインはほとんど弄らなくても済む。船首楼甲板は後端をプラ板で1.5mm延長してから横幅を1.3mm削る。甲板単独で平面形を仕上げてから船体に接着し、甲板に合わせて船体を整形してやる方が実は楽。接着後に一括で整形しようとすると、図面に甲板を乗せてライン合わせができないのだ。

ピットロード峯風型の平面形修正
先の平面比較の船首楼~艦橋付近拡大。全体に与える印象としては、タンブルホーム再現よりも船首楼と艦橋弄る方が効果大かも。

また、タートルバックの曲面もアールがきつすぎてらしくないので、断面のアールがもっと緩くなるように整形し、甲板の延長部をゲージにして船首楼側壁も延長。

艦橋は平面形に難があって、前面の楔型が浅い。前述の船首楼と、この艦橋平面の所為で、このキットはあまり似てない印象がある。
下手にキットパーツを使うより作り直す方が早いので、羅針艦橋はプラ板とエッチング窓枠で新造。艦橋基部はそこまでおかしくないが、最上甲板の位置が高いので上下逆に接着し、甲板断面を薄く削る。

煙突はいつも通り、中を抜いて格子は省略。1番煙突と艦橋の間が妙に空いてる気がしたのだが、実は煙突ではなく艦橋の位置がおかしい。要は、船首楼が短い分だけ艦橋もその分前に出てた訳だ。あと、2番砲座のあった前後煙突間の甲板室もやや前よりで、これは2番煙突ギリギリまで下げるとバランスが似てくる。

4番砲下の甲板室は1mm程後ろにずれているので、キットのガイドを削り取って前寄りに。ここは目立たないので省略しても良いと思うが、今回は対潜兵装を積み増しする予定なので、スペース確保のためちゃんと直す。

「澤風」の左舷: 1923年(大正12年)
ひとつひとつの修正は大きくないが、積み重ねでシルエットが変わる。

今回は架空要素を盛り込んだ場所なので判りづらいが、最上甲板レベルにある各砲座も甲板面が高い。ちょうど甲板室のパーツだけを使い、甲板パーツを省略したくらいの高さが本来のバランスになる。修正にはいくつか方法があるが、今回は甲板パーツを使わず、左右の張り出し部分だけを0.3mmプラ板で切り出し、甲板室の側面に接着して天面とツライチにした


ここまで通して読んでいただければお判りのとおり、キットは全体に高さ方向が過剰気味なのと、船首楼や羅針艦橋の全長不足と横幅過多により斜め部分の角度が浅くなっているのが相俟り、全長は正確なのに寸詰まりに見える。

架空要素なしに本来の「峯風型」として組む際も、これらの点に留意して修正してやれば、より実物の印象に近づくのではないかと思う。


参考ウェブサイト


参考書籍

  • 戦前船舶研究会「駆逐艦『秋風』(最終状態) 舷外側面・上部平面」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、139-142頁 ^2 ^5
  • 「公式図面:『三日月』船内側面」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ64 睦月型駆逐艦』学習研究社、2008年、91頁 ^3
  • 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、560頁^4

全て敬称略

「基本形状は史実に忠実に – 1/700峯風型を架空艦化する: 前篇」への5件のフィードバック

  1. こんにちは由良之助です。九州で大雨だ地震だという報が入るとドキリとさせられますが桜島を足元に抱えているのですからあれこれ心配しても・・と思いつつも知り合いが在住されていると思うと遠い地のことでも気に掛かるものです。

    さて、MA誌でのモデルライターデビューの運びとなり、おめでとうございます。艦船プラモ氷河期を支えていたMA誌こそが本流であるという思いが私にはあるので感慨もひとしおです。
    HJ誌MA誌掛け持ちは珍しいケースかと思いますが扱いは全然違っていて、表紙に見出しが載っておりますし「特別記事」と銘打たれています。
    拝見してみますとキットの比較検証に加え実製作、いろいろな塗装技法の提案も載っています。この構成は「燕雀洞」そのものであって、春園燕雀様に記事を書いて貰うならこうでないといけません。
    文体が余所行きになっているのは仕方無いとは思いますが燕雀洞ファンとしてはちょっと残念・・・。

    NEXTシリーズは成型色が工廠色であるというのがウリだった筈ですがほぼねずみ色1号とは大型艦には明るすぎるのではと思いましたが他の部分の色彩調整でもっともらしく見せているのはやはり色彩の魔術師であると感じた次第であります。

    こうなるとモデルライターに転職?とも思いましたがそれだけで食べていけるような仕事ではでもありませんか・・。しかし、今後の記事もおおいに期待しております(そういえばモザイクの向こう側は・・・?)。

    「羽風」についても感想はありますがこれはまた稿を改めます。

    1. こんばんは。ありがとうございます、私の艦船模型の入り口は衣島先生の連載と別冊なので、MA誌はやはり特別な感慨があります。HJ・MA掛け持ちの方は意外といらして、中堅どころなら長徳さん、若手ではカリヤス君などが掛け持ち組ですね。あとは岩重氏や福士氏のようにHJ・MG掛け持ちや、R工廠さんのようなMA・MG掛け持ちパターンも有りますし、世の中、作例をやろうと云う艦船モデラーの総数自体が足りないのかもしれません。
      文体はまあ最初から飛ばすのもアレですし、今後続くようならおいおい地が出るかもしれません (笑)

      さて、艦ネクの成形色ですが、実物の鼠色が概ね修正マンセルN4~N5の範囲で、ねずみ色がN5ですから、空気遠近法を踏まえれば中々良いところを突いた成形色だと思うのです。明るすぎるように見えるのは、リノリウムが極端に真っ黒に成形されている所為ではないかと。明度的にほぼ煙突の黒塗りと変わらないくらいの成形色で、作例でもフィルタリングで何とか明るくできないかと試してみたのですが、暗色を明るくするのは難しいものです。

      某事情通の話によれば、模型製作専門で飯が食える人ってのは日本で10人いるかいないかくらいだそうで、私の場合は製作速度が致命的なので、今の10倍くらいのペースで完成品作れないと無理そうです。

  2. 失礼します。
    駆逐艦に航空機を搭載というと、机上の空想としてはともかく、
    実艦では荒天時の揺れや波かぶりといった心配があると思いますが、
    その辺はいかがでしょうか?
    最悪、機体が落下してしまいませんか?

    1. DDさま
      はじめまして、コメントありがとうございます。実例だと旧桃型駆逐艦「樫」が満州国に譲渡され「海威」と名を改め航空機運用した実績があります。
      写真を見ると、船首楼と同じ高さの航空甲板に水上機をベタ置きし、デリックで海面に降ろして発進、と云う運用だったようで、今回の「羽風」の運用スタイルは「海威」を基に考えています。
      当然外洋運用には耐えられませんから、「海威」も沿岸警備限定と云う条件ゆえに実現しえたと云えるでしょう。
      「羽風」もイメージとしては、長距離船団護衛と云うより、島嶼部の泊地に所属して、港湾や寄港する船団を襲撃してくる潜水艦を狩り立てる、と云う感じです。

  3. なるほど!沿岸警備用なのですね。
    駆逐艦というと、外洋や波の高い荒天を連想してしまいます。(笑)
    実例もあるのですね。ありがとうございました。

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