「峯風型らしさ」を残しつつ架空要素を盛り込む – 1/700峯風型を架空艦化する: 後篇

航空駆逐艦「羽風」後篇は、メインディッシュの架空要素について。本能の赴くまま盛りまくっても良いのだが、そこはまあ私なので、色々小難しい言い訳をしつつ、「なんかありそう」な風を狙ってゆく。


航空駆逐艦化する

設定は前回述べたとおり、対潜ハンターキラーグループの「眼」の担当で、零式小型水上機搭載。 雷装を撤去した跡地に航空兵装を積む。
無難にまとめるなら1機積みだが、ここは絵的な面白さを狙って頑張って2機載せよう。上甲板繋止だと駆逐艦の乾舷ではすぐ波に洗われてダメになりそうなので、最上甲板レベルに航空作業甲板を設ける。2番煙突直後の3番砲を撤去し、そこから後部発射管跡を跨ぐように配置。

「羽風」の航空作業甲板
航空駆逐艦のキモ、航空作業甲板のレイアウト。妄想爆発で楽しい。

航空作業甲板は本来できるだけフラットであるべきだが、模型的には盛り上がらないので要素を足す。まずは中心線に移動軌条と旋回盤。この旋回盤は移動用ではなく、そのままでは翼端が艦幅より広く主翼が触れないのは不便だろうと云う、整備用の旋回目的。判り辛いけど、この位置で2機が相互に干渉せず回れるギリギリのクリアランスを取っている。

「羽風」の航空作業甲板下の予備フロート
予備フロート、ほとんど見えないけどまあ自己満足だ。

左舷側は乗降スペースとしてフラットにし、右舷には予備フロート吊り上げ用の穴。よく見ると、航空作業甲板下には予備フロートが置いてある。デリックで航空作業甲板上まで吊れる筈だが、クリアランスギリギリなので整備員には不評であろう ()

「羽風」の航空作業甲板下のデリックウィンチ
たぶんデリック用ウィンチはもっと違う形だろうけど、隠れる場所なので雰囲気で。

甲板の脚部分は時期的には阿賀野型のような処理が妥当だが、デザイン的に峯風型らしさを強調するために、余りパーツの砲座横の支柱を加工して使用。
後檣はそのままでは強度が持たないので、三脚化してデリックを追加する。構造は出鱈目だが、一応ナノドレのパラベーン用ウインチを流用してデリック用ウインチを航空甲板下に置く。

零式小型水上機
フロート支柱は本気でやると修羅の道、あくまで「それっぽく」で。

零式小型水上機はWL共通ランナーのものを使用、各部を薄く削って、プラ棒から削り出したプロペラを追加。フロート支柱は割と複雑な形で、このスケールで忠実に再現するのはかなり大変そうなので、菱形エッチングメッシュでそれらしく。

航空兵装以外は時代なりにアップデート

砲兵装は高角砲化。これは設定上の理由と云うより、G型砲の盾をそれらしく作るのが凄く大変だったから。「樅型」の時3隻分9基作って気が遠くなった ()

この時期の「峯風」~「睦月」系列には主砲の高角砲化計画があったらしく[1]、実現には至らなかったものの、構造上は問題なさそうだ。実際、同系統の二等駆逐艦の「蓮」は主砲を8cm高角砲に換装している。[2]

「蓮」の高角砲: 1945年(昭和20年)
終戦時の「蓮」引用元のキャプションでは「栗」とされているが、艦橋形状でお判りのとおり、一緒に行動していた「蓮」である。装備しているのは砲艦などに装備されていた盾付きの8cm高角砲。

と云うことで、手持ちにあった新ピットの12cm単装高角砲を1・4番砲座に設置。12.7cmはこの時期数が足りないはずだから、二線級には回して貰えないだろう。3番を排してしまったので、4番の位置は「松型」のように上甲板直置きで連装化したくなるが、仮置きしてみると「峯風型」らしさが薄くなってしまったので、最上甲板の砲座を残してそのまま単装に置き換え。

2番砲座は両舷に25mm連装機銃に置き換え、艦橋前にも機銃台を設けて連装2基を設置。これは船体形状の参考とした「秋風」の機銃配置に倣っている。史実ではもう少し後に訓令された改正[3] だが、この「羽風」の運用実績を元にしてその訓令が出された、と云うウソ設定。

「秋風」の機銃台: 1944年(昭和19年)
公式図との平面形比較。抜きの関係でタンブルホーム部分までフレアになっており、幅広な印象。

対潜兵装はメイン制圧を僚艦に委ねる前提で、普通の大戦後半駆逐艦なりの艦尾装備。両舷投射機3基と投下軌条1対、これも「秋風」の図面[4] が元ネタ。

短艇類はキットのものはまったく似てないので総取っ替え。カッターと内火艇はWL共通ランナーの全長を詰め、内火艇のキャビンはキャンバスを掛け誤魔化す。通船はアオシマ初春型の物のフチを薄くして使用。

航空駆逐艦「羽風」を後ろから
対潜兵装は新ピット、短艇はWL共通パーツでディテールの密度がバラバラだが、合わせてみると意外と気にならない。

塗装はいつも通りで特に目新しいことはやってないのでレシピだけ。

鼠色 N5 ガイアノーツ 鉄道模型用カラー
No. 1005
ねずみ色1号
リノリウム 5YR4/2 ピットロード 艦船カラー
PC11
リノリウム
+
GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C22
ダークアース
押さえ金物 7.5Y5/4 タミヤ
タミヤカラー エナメル塗料 新ラベル
XF-60
ダークイエロー
鉄甲板
(亜鉛鍍金鋼鈑)
5R4.5/1 GSIクレオス 特色セット ザ・グレイ
MT01
グレートーン1
+
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C3
レッド ()
木部・麻索 2.5Y6/4 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C21
ミドルストーン
キャンバス 10YR8/1.5 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C45
セールカラー
+
Mr. カラー 新蓋
C311
グレー FS36622
+
ガイアノーツ ガイアカラー
Ex-02
Ex-ホワイト
N3 GSIクレオス ガンダムカラー
UG15
MSファントムグレー
船底塗料 5R3/8 GSIクレオス Mr. カラー 新蓋
C81
あずき色

航空駆逐艦「羽風」を左から
全景。航空駆逐艦と云う「大ウソ」だが、できるだけ「峯風型」らしいシルエットを残しつつ、と云うコンセプト。

航空駆逐艦「羽風」の航空作業甲板
いつものプラ棒おじさんたち。翼の上と下で会話してる図は実際の整備風景の写真にもあり、いつかやろうと温めていたネタ。

航空駆逐艦「羽風」とピットロード「峯風」素組
素組との比較。前篇で述べたとおり、ピットのキットはシルエットの把握がイマイチで、特に船首楼と艦橋の所為でズングリして見える。


さて、初の架空艦だが、思いのほか短期工事で竣工し、約10日ほどで出来た。普通のスケールモデルと違って、不明点を敢えて突き詰めずとも設定変更でどうにかできたのが最大の要因か。あと、コンペ的に複数の人と同時に進めていたのもよかった。

私が作ったもの以外にもツィッタァ上で「#航空駆逐艦」で検索すると様々な作品が上がってきているので、興味が湧いた方は一度ご覧あれ。私の様な地味な改装だけでなく、全通甲板型やら飛行艇母艦化など、奇想に満ちたものも数多挙がっており、架空艦の楽しさが感じられると思う。


参考書籍

  • 田村 俊夫「昭和18年の『睦月型』【第1部】」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ64 睦月型駆逐艦』学習研究社、2008年、119頁 ^1 、120-122頁^3
  • 田村 俊夫「艦艇秘録写真選」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ45 帝国海軍 真実の艦艇史』学習研究社、2004年、43頁 ^2
  • 戦前船舶研究会「駆逐艦『秋風』(最終状態) 舷外側面・上部平面」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、139-142頁 ^4

全て敬称略

「「峯風型らしさ」を残しつつ架空要素を盛り込む – 1/700峯風型を架空艦化する: 後篇」への1件のフィードバック

  1. こんにちは由良之助です。艦船模型スペシャル誌デビューおめでとうございます。表紙にも起用されていますし島風のレビューもあって豪華二本立てとなっています。乙型潜の記事内容は実艦写真や他社製品とのシルエット比較にディティール調整作例、更には乙型改Ⅰ改造のヒントまで載っている大サービス、まさに燕雀洞が紙媒体にやってきたということです(くどいですが文体は除く)。
    また、今迄あまり光の当たらなかった九六式小型水偵を取り上げているのは特筆もので、艦船模型誌史上初めてではないでしょうか。しかも具体的な製作方法まで載っており、昔は九五水偵や九八夜偵は改造して作ったもの・・と遠い目になってしまいました。
    HJ誌は岩重氏が執筆されているためでしょうか、春園燕雀様の小物屋の本領発揮とはいきませんでしたがMA誌ではどしどし執筆していただきたいと期待しております。

    「羽風」ですが、現実感と空想を自在に行き来しており実に春園燕雀様らしいと感心しました。
    峯風型らしさを残しつつ、とありますが元のキットがアレですから「らしさ」を取り戻すところから始めており、普通に峯風型の製作記事として読めます。長さが2~3ミリ違ってもそう気にはなりませんが(二等駆逐艦で4~5ミリはどうかと思いますが)高さは1ミリ違えば大騒ぎだと思います。ピットロードのキットはそのあたりにあまり注意が払われていないので「何かヘン」となるのですがこの「羽風」はずい分頭が軽くなった感じで本来のフォルムを取り戻しています。タンブルホームの再現も素晴らしく、「これぞ峯風級」と思いました。
    このように実感を確保しつつ欲張ったデザインでおおいに遊んでいます。水偵2機は無茶そうに見えますが零式小型水偵を起用することで現実感を出しています(単に零式小型水偵マニアの心情が示されているだけ・・?)。航空作業甲板の支柱は実際に改造したらこうはしないということは理解しつつ敢えてこの形態にしたことで見る者をクスリとさせます(ニヤリとするか爆笑するのかは峯風級への愛次第?)。
    揚収用にクレーンを立てるといった構造的な無茶はせずウインチ使用のデリックで手堅く現実感を保っています。
    水偵2機搭載という妄想を現実感で取り囲んで纏め上げたという構造になっており、考証不明があっても周囲の確実な情報を積み上げて高い説得力をもたらす燕雀洞にふさわしい小品であると思います。

    各誌に続々とデビューを飾られて何か遠くへ行ってしまわれた感じがして、このような駄文を送るのは憚れるような気がしてきました・・・。

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