短艇模型スペシャル No.2「八八艦隊系駆逐艦の短艇: カッター篇」 – 1/700で樅型駆逐艦をつくる: 19

今回は、「峯風型」「樅型」などの八八艦隊系駆逐艦用に使える、各社アフターパーツのカッターを個別に比較。ズバリのパーツは無くとも、似たようなパーツから結構いいものが作れるのだ。

短艇模型スペシャル No.2「八八艦隊系駆逐艦の短艇: 個別比較篇」
さて、思いの外、記事が長くなってしまったので、まさかの「短艇模型スペシャル」第2弾。
今回は前回のような文字ばっかりの真っ黒い記事ではないので、気楽にご覧くださいまし。


今回もまた、これでもかと云う位に長い商品名称対策で、以下、静岡模型教材協同組合の「ウォーターライン 小型艦兵装セット」を「WL小型艦兵装セット」、ピットロードのE品番の「WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT旧装備品セット」、NE品番の「新 WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT新装備品セット」とそれぞれ略記する。

前回同様、森恒英氏の「日本の駆逐艦」の各種短艇 (艦載艇) の図面[1] と、「吹雪型改」の「浦波」の公式図[2] にあったダビットの図面を基に、比較をしてみた。

各社7mカッターの比較

WL小型艦兵装セットとピットロードの新旧装備品セット、ナノ・ドレッドの7mカッター比較 新世代の2者はモールドの素晴らしさが際立っているが、WL小型艦兵装セットも側面形のシアーの感じなど、形状把握は秀逸。

WL小型艦兵装セット
品番: 518 / 定価: 972円 (税込)
やや縁が厚いものの、モールドや成型状態は程好く、形状把握も的確。特に側面形がすばらしい。
幅が不足気味で、それに伴い平面形が崩れているのが惜しい。
PT旧装備品セットV
品番: E-10 / 定価: 1,080円 (税込)
外形寸法は正確で平面形は良好。だが、型ズレで船縁が欠けていたり、ダビット取り付け穴が目立っていたりと、モールド面で印象が悪い
また、側面形がまったく似ていないのが最大の難点。
PT新装備品セットII
品番: NE-02 / 定価: 2,160円 (税込)
外形寸法は正確で、モールドは繊細と品質面では文句なし
ダビットの取り付け穴は大きいが、縁が薄いため、取り付けるとさほど目立たない。また、今回比較したカッターの中で、唯一、舵が再現されているのも注目
PT新装備品セット5
品番: NE-05 / 定価: 2,160円 (税込)
上記IIのデータを共用していると思われる。故に、外形寸法は正確で、モールドは繊細と文句なしの出来
ナノ・ドレッド
カッターボートセット

品番: WA-08 / 定価: 1,296円 (税込)
外形寸法は正確でモールドはシャープ、上記PT新装備品セットと甲乙付けがたい出来で、オールが付属しているのも高評価
こちらにはダビット取り付け穴がない。PTのものと比べるとモールドは大人しめだが、外板継ぎ目まで表現されている。

開発年次の若い、PT新装備品セットとナノ・ドレッドが双璧で、ワンランク落ちてWL小型艦兵装セット、PT旧装備品セットといった感じ。
PT旧装備品セットは難が多く、WL小型艦兵装セットが同梱されているキットでは敢えてこれを使用する価値は乏しい。

全幅の問題が無ければ、私の工作水準だとディテールはWL装備品セットで充分。
だが、前回書いたとおり、短艇の幅増しは大変なので、PT新装備品セットより割安なナノ・ドレッドを使用した。

PT新装備品セット、ナノ・ドレッドとも、ちょうど、前から2番目と3番目の肋材の間で1フレーム分詰めると、かなり正確に近い寸法の6mカッターになる
ナノ・ドレッドのカッターは、内部のモールドは文句なしだが舵が無いので、0.5mm幅のプラストライプで追加した。
あと、6mカッターはオールの定数が6本と、7mカッターのそれより少ない[3] ので、付属のオールのパーツから本数を減じて使用した。

ナノ・ドレッドの7mカッターを、6mカッターに改造 切りしろに余裕をもって工作するようにすれば割と簡単。ただ、切り離し時に部品を飛ばしやすいのが鬼門 ()

「樅型」「蔦型」「若竹型」は6mカッターを装備したのか

前回、サラリと流してしまったが、実は「樅型」「蔦型」「若竹型」は「一般計画要領書」では、18ftカッターを装備となっている。[4]
メートル法換算で約5.5mで、6mカッターよりやや小さい。
毎度おなじみ「芙蓉」の公式図[5] でも、カッターだけは内火艇や通船に比べて、やや小さめに描かれている
ちなみに、内火艇と通船については、20ftのものを装備しており、これはメートル法換算で約6.1mで6m級と、ほぼ同一の大きさである。

ところが、国立公文書館アジア歴史資料センター (アジ歴) 所収の、終戦時の「蓮」の引渡目録には「6米カッター」の表記[6] があり、どこかのタイミングで18ftカッターを6mカッターに更新していることがわかる。
長さの違いが微妙なので、正横からの写真でなければ判断がつき辛い。
写真で確認できる限りでは、少なくとも1934年 (昭和9年) の「栂」[7] は、まだ18ftカッター装備のように見える。

では、いつ換装が行われたのか?
アジ歴内で検索してみると、理由は不明だが、1937年 (昭和12年) に駆逐艦を含む多岐の艦種に渡り、フィート長表記の短艇がメートル長表記の短艇に更新されている
「栗」「栂」「蓮」については、換装訓令の文書を見つけられなかったが、恐らくこの時に換装されたのではないかと推測している。
よって、今回は設定年次が1941年 (昭和16年) ごろとしているので、6mカッター装備とした。
ちなみに、意図したものかは不明だが、キット付属のカッターをそのまま使えば、ほぼ18ftカッターに見えるはず。

ところで、前回の更新後、以前に駆逐艦「藤」の写真を送っていただいた末廣さんから、早速、関連の写真が送られてきた。流石末廣さん、仕事が早い。

推定1930年 (昭和5年) 頃の、駆逐艦「藤」の18ft?カッター (原版) 推定1930年 (昭和5年) 頃の、駆逐艦「藤」の18ft?カッター (補正後) 写真は、上が原版で下が階調補正したもの、クリックで元のサイズの画像を表示。

末廣さんの御祖父君の乗艦時期から、1930年 (昭和5年) 以前の撮影なのはほぼ間違いないので、上記を踏まえると18ftカッターではないかと思う。
ft単位の時代の短艇の写真は際立って珍しいものではないが、多くは艦艇に吊られていて小さく写り込んでいるだけだったり、寸法を特定できず、何ft型か不明だったりするので、「18ftカッター」としてディテールが判る写真は貴重なのではないだろうか。
あと、模型で見慣れていると、人と並んだ時、意外と大きいのに驚かされる。
関係ないけど、真ん中の人の片肌スクール水着みたいな恰好が気になる ()


と、ここまででまた結構な長さになってきたので、記事を再分割。
No.3につづくッ!


参考書籍

  • 森 恒英「駆逐艦が搭載した艦載艇」『軍艦メカニズム図鑑 – 日本の駆逐艦』グランプリ出版、1995年、278-281頁 ^1
  • 日本造船学会「一等駆逐艦 吹雪型 (性能改善) 浦波 一般艤装図 3/3」『明治百年史叢書242 昭和造船史別冊 日本海軍艦艇図面集』原書房、1975年、82頁 ^2
  • 高橋 治夫・戸高 一成「『内火艇』写真説明」『写真 日本の軍艦 第14巻 小艦艇II』光人社、1990年、179頁 ^3
  • 福井 静夫『海軍艦艇公式図面集』今日の話題社、1992年、124-127頁 ^5
  • 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、540頁 ^7

参考ウェブサイト

すべて敬称略。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です