傾斜梯子・軍艦旗・伝声管など、細部工作の小技集 – 1/700で樅型駆逐艦をつくる: 21

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傾斜梯子・軍艦旗・伝声管など、細部工作の小技集塗装についてまとめていたら、またしても記事の分量が膨大になってしまった。
先月からの色見本篇に加え、艦艇塗色についての考察と空気遠近法についてのネタで3本くらいの記事になりそうな塩梅。
よって、何をしたか忘れない内に、一旦、基本塗装後に施した細部工作関係を先にまとめることにした。


傾斜梯子と垂直梯子

各甲板をつなぐ傾斜梯子は、ライオンロアのエッチングパーツを使ってみたかったのだが、流通に恵まれず入手できなかったので、ハセガワの汎用窓枠セットを使用した。

森恒英氏の「軍艦雑記帳」によると、小型艦の傾斜梯子の幅は460mm、1段の間隔が250mmとあり、1/700換算で約0.66mmと約0.35mm[1] になる。
これは窓枠セットBの部品2か3が近く、2は0.6mm幅の0.4mm間隔、3は0.8mm幅の0.45mm間隔である。

いつもの「芙蓉」の公式図面[2] に描かれている梯子と比べると、艦橋部分など主要な通路部分は「軍艦雑記帳」よりやや幅広く描かれているので、今回は艦橋と船首楼甲板の梯子は3、他は2を使用した。

ハセガワの「汎用窓枠セットB」を駆逐艦用の傾斜梯子として使用 オーバースケール気味だが、あまり違和感がない気がする。

垂直梯子は同じく「軍艦雑記帳」によると幅が250mm、1段の間隔が350mm[3] で、1/700換算だと約0.4mm・0.5mmとなる。
こちらは、汎用パーツでは同じくハセガワの、「トライパーツ モデリングメッシュ42 (正方形・Lサイズ)」が0.42mm四方の正方形なので、ほぼそのまま使える。

いずれも、元々梯子として販売されているパーツが手に入ればそれに越したことはないのだが、意外と国産品で安定して入手できるものが無いのが難儀なところ。

砲座周りの手すりとキャンバス掛けの表現

2・3番砲座周囲の手すりにはキャンバスが掛かっていることが多いので、エバーグリーンのプラ棒で再現した。
三番砲座については、前方にある後部操舵所 (多分) 周りだけ、恐らく風除けの為に背が高くなっている[4] のがポイント。

砲座に限ったことではないが、キャンバスのかかった手すりを再現する際、実物は手すり上辺の横棒からキャンバスを紐で吊っているので、上面だけ手すりの鼠色に塗っておくとソレっぽく見える
しかも視覚トリックで厚みが薄く見えるので、一石二鳥。

手摺のキャンバス上面を鼠色に塗る 普通に鼠色で塗るだけなので、手間の割に効果が高い。

軍艦旗

今まで、旗旒関係はうまく表現する方法が思いつかず省略してきたのだが、どうしても完成品が地味になるので、今回は、後檣に軍艦旗を掲げてみることにした。
表現として一般的なのは紙シールとデカールだが、デカールは薄く仕上がる反面、経年劣化が心配なので、今回は紙シールで作ってみることにした。

とはいえ、ウォーターラインシリーズ (以下、WLS) のキットに入っているものでは厚みが気になるし、色もなんか明るくて派手すぎる気がする。
そこで、市販のインクジェットプリンター用ラベル紙でも薄手の、エーワンの0.09mm厚のものを用意し、WLS同様に二つ折り方式で軍艦旗を印刷した。

※ ちなみに「樅」「若竹」のキットには、従来の紙シールの代わりに軍艦旗デカールが付属している。
空気遠近法や経年劣化を気にしないなら、なかなかシャープな刷りで発色も良い。

ハセガワ「若竹」のキット付属デカールと、「ウォーターラインシリーズ」共通シール、自作シールの比較 写真で見る限り、キット付属のものはデカールにしろシールにしろ、大きすぎる気がする。いくつか刷り色を変えてみた結果、一番下段のものを採用。

それでもやはり断面は目立つので、試みに極細ペンで断面に軍艦旗の縞に合わせて赤を塗ってみると、思いの外、効果的だった。

軍艦旗の赤の色味については、後継である自衛艦旗や現存する軍艦旗ではいずれも、写真写りによって明るく鮮明な赤に見える場合と紅色に見える場合があり、判然としない。
現状、それらの現物を見に行って測色する機会も無さ気なので、海軍旗章條令の「軍艦旗」の項の「日照光線 紅」の記載[5] に従い、紅色寄りに振った色味とした。

紙シールによる軍艦旗の自作と、断面・張揚索の処理 先の手摺同様、断面にひと手間かけるだけで化ける。

問題は取り付けで、艦尾旗竿の場合は、張揚索 (ハリヤード) の代わりに旗竿そのものに巻きつけて固定する方法があるが、後檣の場合は斜桁先端から張揚索が下がっている所に取り付けられているので、同じ手は使えない。
張り線は、このスケール的では過剰な印象があり、基本的には付けないのだが、こればかりはどうしようもないのでモデルカステンのメタルリギングを使用した。
張揚索は麻製なので、ヘンプに塗っている。

伝声管

大正期建造の駆逐艦で特徴的な装備に、伝声管がある。
以前の記事で紹介した、「藤」の写真の3枚目と4枚目で、艦橋前から伸びている白いホースみたいな物のが伝声管。
艦橋からの指示を各部署にリアルタイムで伝える、艦内電話に相当する役割の装備で、外から見える範囲では、艦橋から各砲座、発射管へ伸びている物が目立つ。

これは配管のような固定式の装備ではなく、比較的柔らかい素材でホースのように自由に取り回し出来たようで、準同型「若竹型」の「芙蓉」や、拡大版である「峯風型」の「秋風」の公式図面[6] [7] を見ても伝声管は描かれていない。

写真から判断すると、主砲の砲身と同じ位の太さか少し細い程度なので、構造物に沿わせる場所は0.2mm径の鉛線で再現した。
魚雷発射管の上などの空中を走っているものは、伸ばしランナーを現物あわせで、鉛線と太さを揃えて製作した。

伝声管の引き回しは艦によって異なり、今回の3隻だと、「樅型」の「栗」と「栂」は後方向けの伝声管が艦橋右舷1層目から出てきて、中央構造物右舷を通っている[8] [9] が、「蔦型」の「蓮」だと艦橋左舷1層目から出てきて2番砲座と2番煙突の間を通って烹炊所右舷に沿うという、やや複雑な経路を取っている[10]
「樅型」「蔦型」「若竹型」で傾向をみると、基本は右舷通しで、前述「蓮」の他、「蔦型」の「蔦」[11] と「若竹型」の「早蕨」[12] が左舷から出て右舷に回る方式だが、所属駆逐隊、建造工廠ともまちまちで、個艦の判断に委ねられていたのだろうと思う。

駆逐艦「樅型」「蔦型」の、艦橋後方への伝声管の取り回し 「蓮」以外は、概ね右舷配置が多い印象。

また、前方向けの管は「樅型」では羅針艦橋左舷から出てきたものを艦橋1層目前面に回り込ませてから発射管の上を通している[13] が、「蔦型」「若竹型」では管そのものが艦橋1層目前面から出てくる[14] ように改良されている。
多少の差異はあるが、概ね「樅型」「蔦型」の艦型ごとに引き回しのルールが決まっているように見える。

駆逐艦「樅型」「蔦型」の艦橋前方への伝声管の取り回し 「蔦型」以降、取り回しが洗練された。

一番砲座のグレーチング目地の再現

以前の記事で触れたように、1番砲座上には、木製グレーチングが敷かれている
「樅型」の「柿」の写真[15] から、木材を同心円状に敷いている大戦後期の「松型」の砲座と違って中心から放射状に木材が敷き詰めてあるのが判る。

以前の記事では、目地の再現方法が思いつかず、とりあえず円盤状にプラ板を貼って厚みだけ表現していたが、色がつくとやはり物足りない。
かといってスジ彫りは絶望的に下手なので、デカールによる目地の表現を試みた。
自作デカールと云えば、アルプスのMDプリンターだが、プリンターの特性上、幅0.3mm未満の線などを印刷するとどうしてもドットが目立ってしまうのが気になる。
そこで、インクジェットプリンター対応の、ガイアノーツの「おうちdeデカール」を使ってみた。

インクジェットプリンターが使用できるので、細かい描線のシャープさはMDプリンタより良いように思う。
但し、貼り方がドライデカールに近く、一度貼ってしまうと強力に固着して微調整が効かないうえ、位置合わせの時点では印刷面が見えないのが難儀。
直貼りではどうしても中心軸が合わせられず、今回はウェーブのクリアデカールに一旦転写したものを貼り付けてみた
この方式だと、普通のデカール同様に位置合わせができ、また、前述の通り、粘着力が強いので水を多量に含ませてもデカール同士が剥離することはない
しかし、当然ながらフィルム2枚分の厚みになってしまうため、航空機のマーキングなど、平滑な広い面には向いていないと思う。

※ 剥がすには、水ではなくエナメル溶剤が必要になるので、エナメル系で塗装している人は注意。

「樅型」「蔦型」駆逐艦の、一番砲座グレーチングをデカールで再現2枚重ねなのでデカールが厚いが、こういった形状だと目立ち辛い。

諸々問題はあるものの、総合的に見れば、塗りっぱなしの状態との差は一目瞭然で、このタイプのグレーチングの再現では現状で最適な方法のように思う。


さて、お気づきになった方はいらっしゃるだろうか?
垂直梯子の項目、説明だけして写真が無いことに。

2番煙突後ろの烹炊所など、何箇所かに取り付けたのだが、悉く他の構造物の影になり、結局、写真に写らないものばかりになってしまったのだ ()
こういう報われない事ばかりやってるから、中々完成しないんだねえ。


参考書籍

  • 森 恒英「13-3 昇降装置と手すり」『軍艦雑記帳 下巻』タミヤ、1991年?、33頁 ^1 ^3
  • 福井 静夫『海軍艦艇公式図面集』今日の話題社、1992年、124-127頁 ^2 ^6
  • 阿部 安雄「日本式設計駆逐艦の確立」『日本駆逐艦史 世界の艦船 2013年1月号増刊』海人社、2012年、66頁 ^4 ^14、69頁 ^8、70頁 ^12
  • 戦前船舶研究会「駆逐艦『秋風』(最終状態) 舷外側面・上部平面」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、139-142頁 ^7
  • 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、540頁 ^9、542頁 ^11
  • 中川 務「八八艦隊計画の駆逐艦」『日本駆逐艦史 世界の艦船 1992年7月号増刊』海人社、1992年、61頁 ^10、58頁 ^13
  • 戦前船舶研究会「大型航洋駆逐艦の登場」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、86頁 ^15

参考ウェブサイト

すべて敬称略。

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