空気遠近法を意識して塗ってみる – 1/700で樅型駆逐艦をつくる: 22

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空気遠近法を意識して塗ってみる

艦艇塗色の考証については前回述べたとおり、詳細は別稿に譲るとして、今回の塗装。

概ね、衣島尚一氏の「軍艦の塗装」に準拠し、そこで触れられていない部分は独自考察による推定、そしてそれらに対して空気遠近法を加味した補正を加える、という方針。


空気遠近法を手軽に計算してみる

空気遠近法について乱暴に云えば、対象との距離が離れるほど、色相が青紫みを帯び、明度が上がって彩度が下がって見える、と云う事。
身近に感じられるものとしては、木々の緑色の筈なのに遠景に青白く霞む富士山の色合い、あたりが判りやすいだろうか。

富士山に見る空気遠近法の例
写真はウィキペディアの富士山の項より引用。撮影条件が異なるため厳密ではないが、なんとなくこんな感じ、と云うのはわかると思う。

今回は、まず空気遠近法の影響を受ける前の「生の色」を定義し、それに対して、各色均一な条件で上記の空気遠近法的な「フィルター」を掛けることにした。

具体的には、

  1. 各色の修正マンセル値を調査または推定
  2. 色彩のあれこれ Color_Research_Lab.」さんの「表色系変換」のページで修正マンセル値をRGB値に変換
  3. フォトショップ上で上記の空気遠近法による変化を加えるための「フィルター」(要は空色のベタ塗りレイヤー)を、色の3属性別に作成
  4. 1. のRGB化した色に 2. の「フィルター」のレイヤーを重ね、3属性別に透過度を調整
  5. 「フィルター」の掛かった状態のRGB値を、先の表色系変換スクリプトで再度近似修正マンセル値に変換
  6. 日本塗料工業会の色見本帳の近似修正マンセル値の色票を元に、塗料を調合

という手順を踏んだ。3. ~4. 辺りがかなり判り辛いと思うのだが、これについては、この連載ではなく、後日、別途に塗装のネタで独立記事を書きたいと思っている。

まあ、理屈上はそれでいい筈だが、実際に色見本を並べて肉眼で見ると、微妙に明度差が逆転していたり、色相間の相性が悪かったりするので、そこは多少、感覚で調整している。

それらを加味した結果、このような配色になった。以下、各色について説明してみる。

空気遠近法を加味した、1/700「樅型」駆逐艦の配色
流石にこの大きさの全体像だとリノリウム押さえが写らないねえ……。

鼠色

艦船モデラーには周知の通り、日本海軍艦艇のグレー、所謂「鼠色」は、「軍艦の塗装」によると工廠毎に納入業者が異なるため、色味も異なる[1] とされている。
そして、こちらは何故かあまり人口に膾炙していないが、原則として、就役後の最初の定期検査以降は、所属鎮守府付属工廠の「鼠色」で塗装される[2]
就役直後を除けば、建造工廠の「鼠色」とは限らない。ここ大事。

従って、今回の3隻は佐世保鎮守府所属なので修正マンセル値N3.5(同書の記載)~N4 (同書のカラーチップ実測) [3] と推定されるが、そこに上記を加味して5PB5/1とした。

今回、手持ち+幾つか買い足した塗料を測色してみたのだが、GSIクレオスのMr. カラーのグレーは全般に緑掛かる傾向が強く、そこから青紫寄りに振るのは難しいと感じた。
そこで、N5.5近似の「特色セット ザ・グレイ」のグレートーン2を元に、キャラクターブルーで青みを足し、ミッドナイトブルーを若干加えて明度を整え、5PB4.5/1位とした。

見本の調合比について
以下の色見本の右列は、調色に使用した塗料だが、概ね上から配合比が高い順となっている。 1番上をベースに、2番目、3番目と足して調整していく感じ。
ただ、当然、保存状況などにより塗料の濃度等が変わってくるので、具体的な調合比は割愛した。人によっては、2番目以降は順番が入れ替わる事もあるかもしれない。

この項、ツイッタァ上から、わん娘マスター氏より「本稿を参考に調合しようとする際、配合比の目安があると助かる」とのご指摘を頂いたので追記。ご指摘ありがとうございます。

鼠色 (佐世保) 5PB4.5/1 GSIクレオス
特色セット ザ・グレイ
MT02
グレートーン2
 +
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C110
キャラクターブルー
 +
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C71
ミッドナイトブルー

リノリウム

「軍艦の塗装」のカラーチップ[4] では5YR3/3近似で、ピットロード艦船カラーのリノリウム色もそれに近い。こちらは本文に修正マンセル値の記載は無い。
そこに上記の空気遠近法を加味した結果、7.5R4/1.5あたりとなる。

多少黄色くはあるが、Mr.カラーのダークアースが5YR4/2近似で割と近い色なのでそのまま使用した。

真鍮の押さえ金物だが、意外にこれがしっかり明色として写っている写真は少なく、古びた五円玉の如く黒ずんでいる場合が多いのだろう。

リノリウム押さえは当初よりスミ入れで再現を狙って凹モールドにしており、7.5Y5/4近似のタミヤカラーエナメルのダークイエローあたりが適当かと思って流してみた。

だが、色を入れてみるとクッキリしすぎて模型然としてしまったので、部分的に下地色に近いフラットアースと上記2色をランダムに混ぜ、意図的に目地のはっきりした部分と殆ど見えない部分を作った

スジボリ+スミ入れによるリノリウム目地の表現
目地がクッキリとダークイエローだとどぎつかったので、ところどころ地色に近づけたが、もう少しハッキリさせても良かったかも。

リノリウム 5YR4/2 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C22
ダークアース
押さえ金物 2.5Y5/4 タミヤ
タミヤカラー エナメル塗料 新ラベル
XF-59
デザートイエロー

鉄甲板

海軍省の作成した「兵学校 運用術教科書」によると、小艦艇の上甲板や大艦の錨甲板などは、無塗装油拭の亜鉛鍍金鋼鈑 (所謂トタン) だった[5] らしい。
安い金属バケツなんかのアレである。亜鉛鍍金鋼鈑のイメージ的には青白い銀色だが、写真では「鼠色」より幾分暗く見える。

これはどうも、亜鉛表面の酸化膜が黒いことによる[6] っぽい。
普通のトタン板は白く錆びるが、現役艦艇の場合、毎日のように磨き上げられるので、古びても錆が固着せず、下地の黒変した層が出てきているんじゃないかと思う。
(多分に推測、詳しい方教えて下さい)
よって、前述の「鼠色」を基準とし、やや暗めの5R4/1くらいとした。
手持ちのMr. カラーに赤みのグレーが無いため、N4近似の「特色セット ザ・グレイ」のグレートーン1を元に、原色の赤を加えて調合した。

赤みを帯びさせたのは、表面材質の違いを出すために「鼠色」と色調を変えたかったのと、隣接するリノリウムと色相を合わせて馴染ませるため。
(ここを寒色系にすると、リノリウムだけ暖色系になって浮いて見える)
よって、特に材質的に赤みを帯びる根拠があるわけではない。

鉄甲板
(亜鉛鍍金鋼鈑)
5R4/1 GSIクレオス
特色セット ザ・グレイ
MT01
グレートーン1
 +
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C3
レッド ()

木部・麻索

砲座のグレーチングと短艇内部は、身の回りの木製品で良い感じの色の物からあたりを付けて、10YR7.5/2近似のセールカラーとしてみた。
麻索の色も同じく。このスケールで微妙な色違いを増やしすぎると締りがなくなるので、あえて同色で。
スミ入れやデカールで目地を入れると、かなり色合いが沈んでしまったので、ここはもう少し研究が必要。

木部・麻索 10YR7.5/2 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C45
セールカラー


白キャンバス部分は、5GY8/0.5近似のMr. カラーのグレーFS36622、米軍の所謂ベトナム三毛猫迷彩のグレー。
純白+空気遠近法だともう少し青みを帯びるが、現在のような蛍光漂白剤の無い時代の布なので、多少黄ばんでいるだろうという要素と、空気遠近法の青みを、相殺して無彩色に。

前檣見張り所や伝声管などの暗色キャンバス部分は瀝青引きの布ではないかと思うのだが、明度が鼠色にほぼ等しく、そのまま再現すると「鼠色」の塗り分け忘れにしか見えないので、そこからやや黄色みに寄せてRLM02グレーとした。
イメージとしては、新品でただのグレーだった布が、風雨に晒されてできた染みなどでやや茶色くなってる的な感じ。

白キャンバス 5GY8/0.5 GSIクレオス
Mr. カラー 新蓋/新ラベル
C311
グレー FS36622
暗色キャンバス 5GY5/2 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C60
RLM02グレー

煙突・後檣の黒

煙突の黒は 、RLM66ブラックグレーとミッドナイトブルーを元に青みを足した5PB3/1近似の濃紺。
海自の艦艇用黒塗装の指定がN2[7] なので、そこに空気遠近法+当時の技術的にもう少し黒がくすんで明るかったんじゃなかろうか、という推測で明るめに。
機銃も黒染めされていた筈なので、同色にて。

5PB3/1 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C116
RLM66ブラックグレー
 +
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C110
キャラクターブルー
 +
Mr. カラー 旧蓋/新ラベル
C71
ミッドナイトブルー

船底塗料

旧海軍の配色を踏襲している海自の護衛艦の艦底色がかなり鮮やかなので、所謂艦底色と呼ばれる赤茶系の色ではなく、鮮やかめに振ってみた。
5R3/8近似のMr. カラーのレッドFS11136を使用。

当時の写真を見ると、船底塗料はほぼ煙突の黒塗りと同じ位の明度に見える。
しかし、当時のモノクロフィルムは赤の感色性が低く、赤みの色は黒っぽく写ってしまうので、実際には幾分明るかった筈。
上記のレッドFS11136も煙突に塗った黒も、明度値は同じく3だが、彩度が高いために赤の方が幾分明るめに見えると思う。

後日調べたら、当時の船底塗料の色材には亜酸化銅が使われていた[8] ようなので、もう少し錆止めっぽいオレンジ寄りの色でも良かったかもしれない。

船底塗料 5R3/8 GSIクレオス
Mr. カラー 旧蓋/旧ラベル
C327
レッドFS11136

汚しとか

当時の日本海軍艦艇の写真を見てみると、現役の「生きている」艦艇は戦時中でもあまり派手に汚れていない
模型でよく見かける、舷側や錨鎖口から派手に錆や水垢が流れているイメージは、戦後に撮られた擱座・放棄された写真や、模型の箱絵の影響が強いのかなと思った。

よって、今回は、錆色やくっきりとした水垢流れは控え、ムラに塗面が劣化したイメージで薄く黒ずみを入れるだけにとどめてみた。
今回、初めてタミヤ製化粧品ことウェザリングマスターを、エナメル塗料と併用してみたが、スポンジの使い方に慣れておらず若干大味になってしまった。

ぼんやりとした黒ずみにとどめた舷側の汚し
クッキリとした錆や水垢流れは避けて、ややぼんやり気味で。
でも、意図したよりクッキリしてしまった。


製作を思い立ってから、およそ1年半、実作業に入ってからでも1年以上掛かってしまったが、漸く完成である。
まあ、隻数で割ると、1隻あたり4~6か月ペースなので、さほど遅くはないよね?
あ、駆逐艦でソレは充分遅いか。

製作篇はこれにて終了。ただ、あまりに長期化してしまったので、次回、連載全体のまとめと、完成写真の披露の記事にて完結させたいと思う。


参考書籍

  • 衣島 尚一『軍艦の塗装 モデルアート5月号臨時増刊 No. 561』モデルアート社、2000年

    • 「船舶塗装の歴史」12頁 ^1、16頁 ^2
    • 「日本海軍艦艇用カラーチャート」1頁 ^3 ^4
    • 「日本の軍艦塗装の変遷」39頁 ^7
  • 色材協会『色材工学ハンドブック 新装版』朝倉書店、2008年、313頁 ^8

参考ウェブサイト

全て敬称略。

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