コクピット内の工作が億劫で、スツーカを暫く放置していたら、エアフィックスから、改造せずともそのものズバリのB-1型が発売されてしまった。
前評判は高かったが、果たしてその中身や如何に? そして、ここまで弄ったイタレリ版を捨てて乗り換えるべきか?? まずはエアとイタレリ、両者を比較し、そこから考えよう。
突然の72スツーカ戦国時代
連載初回、2014年末の時点では、エアフィックスの72スツーカは骨董品のB-2型のみだった。そこで、比較的新しいフジミとイタレリを比較した結果、プロポーションの良好なイタレリをベースに、B-2をB-1化していたのだが、折悪しく引き返せない辺りまで進めてからエアフィックスがB-1を発表。うーん、似たような流れ、艦船の方でも有った気が……。
しかも、ズベズダまでがB-2を発売、いったいなんなんだ (笑)
ここで、脇目もふらずイタレリ版に添い遂げて完成させるのが正統派スケールモデラーの筋なんだろうが、私はヘタレなのであっさりエアフィックス版を入手、とりあえず大まかに全体像を比べてみて楽そうな方で進める、と云う戦略的転進を行うことにする。
本当は、ズベズダ版も併せて入手して比較するのが良いのだろうけど、B-1のキットが出たのにわざわざB-2のキットを買うのもなあ、と思い今回は割愛。
平面形
チェックポイントは3つ。胴体のアレンジが強いエアフィックスに対して、主翼のアレンジが強いイタレリ、と云った感じ。
白線が実機の主要部、赤線がダイブブレーキ、それぞれの幅。青線がキットの対応箇所。[1]
イタレリ (タミヤ箱) 品名: ユンカース Ju 87 B-2/R-2 スツーカ 品番: 60776 | エアフィックス 品名: ユンカース Ju87 B-1 スツーカ 品番: X3087 | |
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主翼外形 | 外翼後端折れ角が1.5mm程内寄りで、動翼左右の隙間が目立つ。 翼端の絞り込みはやや甘めだが全幅や脚間はほぼ正確。 | 要所の位置は実機写真にほぼ合致。 特に気になる要素は無し。 |
翼下装備 | 外翼後端折れ角とETC50の位置関係は概ね正確。上記折れ角の誤差分だけ内寄り。 | ETC50の位置は正確、ダイブブレーキ外側の位置は正確で内側に1mm程長い?。 |
胴体 | 特に気になる要素は無し。 | 翼後端をピークにやや太めに感じられる。 |
この写真では、両者ともダイブブレーキとETC50ラックが後ろ寄りに見えるが、後掲の側面写真ではほぼ一致するので、私の写真の撮り方の問題だと思う。
全体的に主翼はエアが似ていて、胴体はイタレリが似ている。
エアフィックスは、主翼のレイアウトは正確だが、胴体中ほどが太目な印象。
イタレリは外翼中央の折れ角部が内寄りな分、翼下装備がズレている。
正面形
チェックポイントは3つ。正面形での外形把握はエアフィックスに軍配。但し、精度に難あり。
白線が実機の主要部で、赤線がダイブブレーキの幅。青線は3者の上反角。[2]
イタレリ (タミヤ箱) 品名: ユンカース Ju 87 B-2/R-2 スツーカ 品番: 60776 | エアフィックス 品名: ユンカース Ju87 B-1 スツーカ 品番: X3087 | |
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主翼 | 外翼の上反角がやや不足し、左右不揃い。 | 外翼の上反角がやや不足し、左右がかなり不揃い。 |
胴体 | キャノピー上端が角ばりすぎ。 | 気になる要素は無し。 |
主脚 | 気になる要素は無し。 | 脚柱部分が太く、やや内股気味。 |
実機写真と比較すると、両者とも外翼の上反角が不足気味である。
以前比較したフジミのキットもそうだったので、比較用の写真が飛行中で上がり気味なだけかもしれない。
胴体と水平尾翼の幅は両者正確。
イタレリはキャノピー天辺角が角ばっているためやや頭でっかちにみえる。
また、先の平面写真でやや外にずれて見えるダイブブレーキが、正面写真では概ね正しい位置に見えるがので、これはキットの解釈で合っているのかなと思う。ただし、外側はETC50がずれている分だけ短い。
エアフィックスは、このキットに限ったことではないが、プラが軟らかすぎて、左右対称が出しづらい。何も考えず組むと水平垂直も上反角もかなり怪しくなる。
写真でもその影響かかなり脚が内股になってしまっているが、多少基部に遊びがあるので、接着時にしっかり調整してやれば修正は難しくない。
下から見たとき長めに見えたダイブブレーキは、正面写真との比較では位置・長さとも正確に思える。これはたぶん私の撮り方の問題で、キットが正しいのだろう。
胴体中ほどが下から見るとやや太目だったが、正面から見ると違和感はない。また、主翼のプロポーションも前述通り正確なので、精度出しにさえ気をつければ、総じてイタレリ版より秀逸。
側面形
チェックポイントは3つ。機首形状はエアフィックス、キャノピー以降はイタレリが似ている。
黒線が実機の主要部の長さで、赤線が高さ。青丸が主な相違点。[3]
イタレリ (タミヤ箱) 品名: ユンカース Ju 87 B-2/R-2 スツーカ 品番: 60776 | エアフィックス 品名: ユンカース Ju87 B-1 スツーカ 品番: X3087 | |
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機首 | 全体に凹凸が不足気味で平板な印象。機首上面インテークの形状に難。スピナーがやや大きめ。 | 特に気になる要素はなし。機首上面インテークはそこそこ似ている。 |
キャノピー | 前席後端の段差部分の後退角がやや強い。 | 下端と後端が下がり気味で、相対的に前端が上がり気味に見える。 |
後部胴体・尾翼 | 特に気になる要素はなし。 | キャノピーからの流れで背が低いが、基軸より下が長く、全体的には太目。 また、尾翼が前方に長く、面積が広い。 |
なんと云っても、イタレリもフジミもイマイチだった機首上面のインテークは、エアフィックスだとかなり良い形状。
正面写真との比較では、機首上面にもう少し丸みが欲しい気もするが、間違いなく現状の72キットの中では上位の出来
機首上面のインテークとアウトレットの表現は、エアフィックスが格段に良い 。
キャノピー以降はエアフィックスはかなり癖の強いアレンジで、表の要素を総合すると尻尾が逞しく、全体にゴツいシルエットに見える。
一方、イタレリのキャノピー以降はかなり似ていて、シルエットは申し分ない。
ただし、キャノピーの枠が極太かつ、後席開閉部の境やアンテナ穴の位置も出鱈目なのは減点。ここをキット指定のまま塗るとすごくオモチャっぽいので、キャノピーだけでもアップデートされないものか。
エアフィックスのキャノピーは、前後方向のプロポーションは正確で、枠の表現もややくどいが妥当な太さ。ただ、表のとおり、縦方向のプロポーションがおかしい。また、抜きの関係で横枠のモールドの下端が曖昧になっているので、塗り分けの際は注意が必要だ
総評
総合的なキットの出来としては、新しい分、エアフィックスの方が良い。
モールドもさることながら、パーツの分割もタミヤのキットにみられるような、できるだけ整形が楽になったり、組みつけがしやすいような配慮が嬉しい。イタレリも5年前くらいのキットの筈※なのだが、90年代的な割り切ったパーツ割で、悪くはないが褒めるべき点もない感じ。
また、前述のインテークや脚部スパッツ外板の重なり感など、ディテール処理のセンスはエアが数段上。
※ ゆりつか氏のコメントにより、イタレリスツーカの初出は96年と判明。90年代的な、と云う印象はまさにそのものだった訳だ。
あと、エアフィックス版は搭乗員フィギュアに加え、操縦室内の内張りも付属しているのが良い。イタレリは側壁がのっぺらぼうで、これを再現するのに飽きて、春先から手が止まっていたのだ (笑)
一方、エアフィックスの宿命として、妙に柔らかいプラの所為で、折角の分割の妙にもかかわらず水平直角が出し辛く、長物パーツの反りも目立って組み辛い。
故に、単純な組みやすさの面では、実はイタレリの方が勝るかもしれない。
外形のアレンジでは、後半部を中心に四角くガッチリしたエアフィックスと、外翼の長さを強調してスラリとしたイメージを強調したイタレリ、と対照的。
とにかく実機に似せたいなら、イタレリベースにディテールアップ、キットのディテールを活かして組むならエアフィックスの方が雰囲気が良いと思う。
エアのキットが出たらゴミ箱行きかな、と思っていたイタレリ版だが、こうして比較してみると、機首上面インテークと窓枠さえ良い感じにできれば、まだまだいけるのではないかと思った。
では私はどうするか? 3機小隊の内、1機は従前どおりイタレリベースで進めるとして、1機はエアフィックスを小修整、残り1機はイタレリ+エアフィックスの良いとこどりができないか試してみようと思う。
キャノピー~後部胴体はイタレリを使うとして、機首はエアフィックス、ここまでは確定。主翼はできればエアを使いたいが、胴体との接合をどうするか、と云うのと、脚はイタレリを使いたいので、ここも接合の問題が。
次回はこのあたりのアレンジをどうするか、からかな。
写真引用元
- 「Bundesarchive Photos 1933 – 1945..+ all fields of WWII」『Histomil.com』2016年6月閲覧 ^1
- 「Stuka the Aerial Artillery of the Luftwaffe for the Wehrmacht」『finnegan2749』2016年6月閲覧 ^2
- 「andrea-kurami-i-dzhankarlo-garello-italyanskie-pikirovshchiki」『alternathistory.org.ua』、2016年6月閲覧 ^3
※ ロシア語サイト 正確な表題がどの箇所か不明のため、URLの記事名部分? とドメイン名を表記。
3か月前の記事にコメントというのもどうなのかなと思いつつも。
イタレリのスツーカですが、金型自体は1996年のモノのようです。
案外ミスの多いサイトなのでもしかしたら間違っているかもしれませんが……。
https://www.scalemates.com/kits/196237-italeri-070-ju-87d-5-stuka
おお、流石スツーカマスターの百合塚さん! ありがとうございます。
GありきでB/Rに展開してたんですね。
96~7年となると、ハセのAP帯の終わりごろと同期ですね。パーツ割の密度とか、あのあたりに近い印象だったので納得です。
私は戦車(1/35)モデラーですが最近1/72戦闘機を気休めに始めました。コルセア→メッサーをつくりスツーカを検討中で、貴殿の記事を読みエアフィックスに決めました。念の入った考察は頭の下がる思いです。
今日始めて拝見したので他の記事も参照させていただきます。
菅沼様
はじめまして。スツーカは作例仕事に追われて途中で止まってしまっており未完なので恐縮ですが、B型のキモだと個人的に考えている機首上面の非対称部分の表現が各社B型の中で一番よく出来ていると思います。気休めにサクッと組むなら一番良いですね。あとは流通がもっと安定してくれると良いのですが……。