短艇模型スペシャル No.8「英空母イラストリアスの短艇: 内火艇篇」– 1/700で初代空母イラストリアスをつくる: 6

再び長らく間が開いてしまったが、短艇模型スペシャルの内火艇篇である。
以前本連載で触れた、アオシマのリニューアル版短艇が同梱された「エクセター」も発売となり、今回はそれも交えて比較してみたい。


基本的には前回と同様のラインナップによる比較だが、先ほど述べたようにアオシマの「エクセター」が今回の新顔。

今回比較するキットは以下の通り。

  • アオシマ イラストリアス (2017年発売)
  • フライホーク プリンス・オブ・ウェールズ (2017年発売)
  • タミヤ レパルス (2007年発売)
  • アオシマ エクセター (2018年発売)

橈艇 (とうてい) に較べると艦種・艦級ごとに搭載艇の構成にバラつきがあり、特定艇種で流用を狙おうとすると結構厳しい。

35ft Fast motor boat (35ftファストモーターボート、以下、「FMB」)

35ft エアクラフトテンダー
FMBとは後部船室周りの構成が異なるが、基本形はほぼ同じ。アナトミーヴィクトリアスに描かれている「35ft ファストシープレーンテンダー」に外見も形状も酷似しているが、同一クラスだろうか?

日本海軍における12m内火艇に近いもので、巡洋艦以上の各クラスに幅広く載せられている。

35ft. Fast motor boat (35ftファストモーターボート)
僅か1年でアオシマ驚きの進化! [1]

カッター同様、アオシマ「イラストリアス」のそれはいまひとつ。側面形に大きな難は無いが、平面形は中央部が太すぎ・船尾が狭すぎでバランスが悪い
あと、パーツC8は搭載位置的に35ft級の艇のいずれかなのだが一回り小さく、このサイズに該当する艇が無いか調べたが特定できなかった。
一方、同社「エクセター」では平面形が気持ち細めだがディテール・形状把握共にかなり良くなった。側面形もバランスが良いが、ややシアーを強調した表現で、実は「イラストリアス」の方が図面には近い (側面形だけだが)
「エクセター」と並べるとややモールドに物足りなさはあるが、タミヤ「レパルス」の平面形も甲乙つけがたい良い出来。ただし、側面形が全体に扁平でシアーも強く、キャビン形状も若干異なる。総合点では最新キットだけあり、「エクセター」がおすすめ。

酷評してきた「イラストリアス」の35ft FMBだが他より明確に優れている点があり、それは船体断面。英海軍の内火艇は日本軍のそれに較べると船体下方に鋭いナックルが付いており、「イラストリアス」はそのあたり結構巧く再現している。
「エクセター」や「レパルス」では日本海軍の内火艇のように緩やかに船底まで面が繋がっており、これらのキットをベースとする場合、上掲の図面に描かれているナックルラインから下を削り込んでエッジをしっかり出してやると良いだろう。

1/700 35ft FMB の断面比較
「イラストリアス」短艇の隠れた美点。[2]

今回の「イラストリアス」ではまだ「エクセター」発売前の製作だったため、ウォーターラインシリーズ共通Wランナーの日本海軍用12m内火艇の上物を削り落として自作している。全長がひと回り大きいが、船首平面のラインがよく似ており、なにより入手性が良いので読者が真似するのが容易だと考えたため。

1/700 35ft FMB の工作
カッターに続き、ここでも静協ランナー大活躍。

上の比較図のとおり、全長がやや長いので船尾で約1.5mm詰め、幅もやや絞る。また、前述のとおりナックルが特徴となるので図面を参考に削り込むとともに、船首側面形もアールを大きめに修正する。
甲板には軽く段差がついているが、FMBは平甲板なので上物を削り落とすついでにツライチに。こだわる向きは前後の船室の間を軽く掘り込んでやるとよりリアルになるだろう。今回はほぼ横からしか見えないのが判っていたので、そこまでやらずお手軽仕様で。

35ft アドミラルズバージ
加工法自体は35ft FMBと同じ。

「Warship Profile 10: HMS Illustrious, Royal Navy Aircraft Carrier 1939-1956」 (以下、「プロファイル」) によれば、35ftアドミラルズバージが1艘搭載されている。[3]
British Military Powerboat Trust掲載の図面ではFMBの後部船室を延長したような造りなので、FMBと同じ手法で製作。

25ft Fast motor boat (25ftファストモーターボート、以下、「FMB」)

25ft ファストモーターボート
25ft FMB。日本海軍における7.5m内火艇に近いクラス。[4]

このクラスは日本海軍では専ら小型艦用だが、英海軍では大型艦に前述の35ft級や更に大型の45ft級などと共に搭載されている。恐らくは大型内火艇より小回りが利くのが重宝されたのだろう。

25ft. Fast motor boat (25ftファストモーターボート)
流石にフライホークと並べると分が悪い。[5]

今回用意できたキットの中では意外とパーツ化されておらず、「イラストリアス」とフライホーク (以下、「鷹翔」) の「プリンス・オブ・ウェールズ」のみ。
「イラストリアス」のそれは35ft FMBと同様の出来で平面形が厳しく、全長も不足気味。鷹翔はカッターに続き流石の出来で平面形・側面形とも的確に形状を捉えており、船体下部のナックルも再現されている

35ft FMB同様、静協の内火艇が使えるかと思ったが、何故か静協の7.5m内火艇は一回り小さい7m内火艇と云う架空艇 (?) としてパーツ化されており、全長も幅も足りず使いづらい。キットパーツの方も全長不足だが、まだ誤差が少ないので全幅を削って平面形を似せつつ、船室屋根や風防を追加してやると何とか見られるものにはなる。

1/700 25ft FMB の工作
このためだけに鷹翔のキットを買うと云うのも難しいので悩ましい。

35ft Crssh boat (35ftクラッシュボート)

これも「プロファイル」に1艘搭載と記載がある[6] のだが、画像資料が無く形状不明。名称的に救難艇っぽい。
竣工時の「イラストリアス」の写真にはFMB系とは異なる35ft級の短艇が写っており、これをクラッシュボートと仮定すると数の面では辻褄が合う。

35ft クラッシュボート
写真が不鮮明だが、明らかにFMBとは異なる形。[7]

いずれのキットにもそれらしきパーツは無いので、またしても静協共通ランナーから日本海軍11mランチを元に、上物をプラ板とマスキングテープでそれらしく。写真が不鮮明だが、なんとなく前半までキャンバス掛けに見える。


アドミラルズバージやクラッシュボートについては、正直追い切れなかった部分があり、また、完成後見えなくなる位置の16ft・14ftディンギーも省略している。プライベート作品であればこの辺りもっと深掘りするところだが、〆切ありの作例と云うことで程々で割り切っている。

心残りが無いと云えば嘘になるが、例えばここを更に1ヶ月余分に掛けて調べ上げても全体の完成度が大幅に上がるとは思えないので、時間対効果、と云う意味ではこれくらいが程よいのかもしれない。


参考書籍

  • Ross Watton『The Aircraft Carrier Victorious (Anatomy of the Ship)』Naval Institute Press、2004年、130頁^1 、131頁^2^5
  • D.J.Lyon『Warship Profile 10: HMS Illustrious, Royal Navy Aircraft Carrier 1939-1956』Profile Publications、1971年、237頁^3 ^6

資料協力: fake johnbull

参考ウェブサイト・写真引用元

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