序論で述べた通り、今回は最終時のキットをデンマーク海峡海戦時として製作している。まずは、その差異を洗い出してみようと思う。
最終時とデンマーク海峡海戦時の差異は、対空兵装
百聞は一見に如かず、まずは図解をご覧いただこう。
前半部の差異。主だったものは主砲上のUP発射機で、他はそれに付随するものが多い。
後半部の差異。前半部と同様、UP投射機とポンポン砲の換装、そして後甲板の機銃座もこの時点では未装備。
上記の通り、最大の差異は2・3番砲塔上の対空兵装で、デンマーク海峡海戦時には対空ロケットランチャーであるUP投射機※ を装備していたのが、最終時ではいずれもポンポン砲に換装されている。[1]
艦橋と後部指揮所の頂部にはUP投射機用方位盤が設けられていたが、UP投射機撤去に伴い艦橋の方位盤は271型レーダーに置き換えられ[2] 、後部指揮所のそれはキットでは282型レーダーとなっているが写真では確認取れず。
図面集「BRITISH WARSHIPS OF THE SECOND WORLD WAR」(ジョン・ロバーツ著、以下「ロバーツ図面集」と表記) 掲載の同型艦キングジョージ5世 (以下「KGV」) の1944年図面では同位置に282型レーダーがある[3] ので、キットの解釈で合ってると思う。砲塔測距儀の上にはポンポン砲用の弾薬箱が新設された。
それ以外では、艦橋横の単装機銃にブルワークの有無、後甲板の機銃座の有無と、いずれも対空兵器に関する改正である。
先の当該箇所を赤で囲っている。海戦前月の艦影だが、おそらくこの状態のまま海戦に臨んだ筈。不鮮明だが艦橋横の単装機銃は本体が取り外され、銃架だけのように見える。
同時期の後ろからのカット。後甲板はやや判りづらいが、最終時のような銃座が無いのは判ると思う。
UP投射機は時代を先取りした発想の兵器だったものの、性能は芳しくなくPoW以外の各艦でも早々に撤去されてしまったようで、1/700で流用できるパーツが少ない。
入手性が良いものではタミヤのフッドに含まれているが、約半世紀前の出来でフライホークのモールドに不釣り合いなのと、残るフッドの使い道に困るのが難儀。
形状はそこまで複雑でもなく、自作難易度は低いが発射口のエッチングと投射機本体のプラ材との合わせ目処理には気を遣う。
そこまで複雑な形でもないので、作例ではプラ材で自作した。基本寸法は前述ロバーツ図面集掲載のKGV竣工時の図面[4] を参考に、試作品を砲塔に載せてバランスを調整。
投射口はハセガワのエッチングメッシュだが、一番小さな目のものでも1.5mm×2mmの中に4×5マスは収まらず、3×4に間引いている。まあ、離れて見るとそこまで判らないものだ。
左が2番砲塔、右が3番砲塔。三角板の追加は面倒だが効果は抜群。
ブルワークは2.5mm幅プラストライプで、前述のKGV図面とPoWでは多少取り回しが異なるので写真を参考にそれらしく。所々に三角の補強板が入るのがポイントで、模型的にも垂直出しや強度の面で有用。
塗装は本国艦隊標準仕様のミディアムグレー単色
対空兵装以上に大きく印象を異にするのが塗装。1941年春ごろの写真では垂直面ほぼ木甲板に等しい明度の単色、そして水平面が垂直面より一段暗く写っており、標準的な507Bミディアムグレー単色塗装と思われる。
砲身・砲塔天蓋・木甲板の明度差が一目で判る素晴らしい写真。
なお、フライホークのデンマーク海峡海戦仕様のキットの色指定では、ダークグレー単色の指定となっており、これは通説の一つである「507Aダークグレー」による単色塗装説[5] を採ったものと思われるが、イラストリアスの塗装の回で触れたように、507Aと507Bに明確な色差はないと云う新説もあり、現状私は新説を支持している。
露光の仕方ひとつで大きく明度は変わってしまうとはいえ、上掲の写真の砲身部分あたりをして「ダークグレー」と云うには無理があると思うのだ。
なお、具体的な調色については、また別稿を設ける予定である。
このように、同艦が短期間で戦没してしまったこともあり、模型的な改造点は意外と少なく、ぶっちゃけキットのままグレーに塗ってデンマーク海峡海戦時、とシラを切っても初見で気付く人は多くないと思う (笑)
とはいえ、決して安価とは云えないキットである。折角作るのなら、ちゃんと拘って作る方が精神衛生上良いと思うのだが、どうだろう。
写真引用元
- 『第2次大戦のイギリス戦艦 世界の艦船 2004年11月号増刊 第634集』海人社、2004年、76-77頁
- 「ON BOARD THE BATTLESHIP HMS PRINCE OF WALES. 20 APRIL 1941.」『Imperial War Museums』A 3918、2021年1月閲覧