短艇模型スペシャル No.1「八八艦隊系駆逐艦の短艇: 総論篇」 – 1/700で樅型駆逐艦をつくる: 18

ディテール追加だけで済ませがちな1/700の短艇 (艦載艇) だが、調べてみると意外に奥が深い、そして、正確な寸法形状の短艇パーツの入手は、これまた意外に難しいのだ。

短艇模型スペシャル No.1: 「八八艦隊系駆逐艦用短艇の総論」
出オチ感漂うタイトルだが、今回の記事、意外と製作時の実用性が高いんじゃないかと思う。

今まで何も考えずに、キットや各社アフターパーツの縁を薄くするくらいで済ませてきた各種短艇 (艦載艇) だが、真面目に調べると意外に弄り甲斐がある。
まあ、ドツボに嵌った、とも云うがね。


短艇? 艦載艇? 装載艇?

いきなり脱線気味の話題で恐縮なのだけど、そもそも、これらのフネ類をどう表記したものかと、しばし悩む。
書籍・ウェブ上ともに、上記3つの表記に分れている模様だが、ウィキペディアの項目名称になっている「装載艇」表記は、個人的に今一つ馴染みがない。
「短艇」と「艦載艇」はどちらでもいい気がするが、文章中で表記ゆれがあるのは不格好なので、本ブログでは公文書に記載の多い「短艇」表記に統一し、記事内最初の表記にのみ「短艇 (艦載艇)」と注記を入れることにした。
語呂的には「艦載艇模型スペシャル」の方が、より出オチっぽいので捨て難いんだけどね。


さて本題。
キット付属の短艇類は、件の全長問題のため、悉く寸足らずである。
というのは織り込み済みだったので、各社の別売パーツ系から調達する目算は立てていたのだが、意外と良い形状のものが無い

八八艦隊系の駆逐艦には、一等、二等を問わず、6m級のカッター、内火艇、通船が装備されている[1] [2]
だが、「吹雪型 (特型)」以降は艦型の大型化に伴い、カッターは7m、内火艇は7.5mが主流となった[3]
そのため、各社の商品化も、知名度や人気に応じて後者のサイズが主となっている。

6m級短艇のパーツで、現状、比較的入手が容易なものでは、ピットロード (以下PT) の旧装備品セットIVの6mカッター、内火艇、通船が唯一のものだ。
しかし、カッターと内火艇は7m/7.5mのそれをそのまま縮小コピーしたような形状で、全幅と深さが不足している。

ハセガワ1/700「樅」のキットと、ピットロードの旧装備品セットの6m級短艇比較
キットのものは、形状把握は秀逸だが全体に小さい。そして何故か内火艇に操舵室が無い!
装備品セットは、全長こそほぼ有っているが、全体的にライン取りが似ていない印象。

短艇類を上から捉えた写真は少なく、中々気付き辛いのだが、6m級の短艇は、7m級の全長だけを縮めたようなバランスで、幅や深さは両者でほとんど差がない。少なくとも1/700レベルでは誤差の範囲程度。

わかりやすく解説された資料では、森恒英氏の「日本の駆逐艦」に各サイズの短艇の図面が掲載されている[4]
また、いつもの「芙蓉」の公式図[5] や、「峯風型」「秋風」の公式図 [6] に描かれている短艇の輪郭線も、森氏の図面と外形が一致する。

キットやPTのものを切断延長する手もあるが、短艇類は形状的に内側の整形が難しく、延長工作は難易度が高い。
そこで、前述の通り深さと幅がほぼ一致する7m級の短艇パーツから、寸法を切り詰めて製作することにした。とはいえ、7m級も各社形状がまちまちだったりするので、手持ちのパーツ類を比較してみた。

各社とも、これでもかと云う位に商品名称が長いので、以下、静岡模型教材協同組合の「ウォーターライン 小型艦兵装セット」を「WL小型艦兵装セット」、ピットロードのE品番の「WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT旧装備品セット」、NE品番の「新 WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT新装備品セット」とそれぞれ略記する。

各社装備品セットの艦載艇入数の比較

は、比較対象内での相対評価で、3点満点。基本寸法、アウトラインの捉え方、ディテールの繊細さとキレの3点で評価。
PT新装備品セット7については、恐らく同シリーズIIや5並の優れたものだとは思うが、現状、メーカーサイトに写真が公開されていないので、予断で星を付けるのは避けた。

  7mカッター
(6mカッター用)
7.5m内火艇
(6m内火艇用)
6m通船 ラフィング型
ボートダビット
「樅型」「蔦型」「若竹型」
1隻あたりの定数
2艘 1艘 1艘 4組
WL小型艦兵装セット
品番: 518 / 定価: 972円 (税込)
4艘
★★
4艘
8組
PT旧装備品セットIV
品番: E-7 / 定価: 1,080円 (税込)
8艘 (6m型) 4艘 (6m型) 4艘 16組
PT旧装備品セットV
品番: E-10 / 定価: 1,080円 (税込)
4艘
4艘
4組
PT旧装備品セットVII
品番: E-12 / 定価: 1,080円 (税込)
4艘
PT新装備品セットII
品番: NE-02 / 定価: 1,944円 (税込)
2艘
★★★
2艘
★★★
2艘
★★★
2組
★★
PT新装備品セット5
品番: NE-05 / 定価: 2,160円 (税込)
4艘
★★★
4艘
★★★
4組
★★
PT新装備品セット7
品番: NE-07 / 予価: 2,160円 (税込)
2艘 2艘 (6.5m型) 2艘 4組
ナノ・ドレッド
カッターボートセット

品番: WA-08 / 定価: 1,296円 (税込)
8艘
★★★
ナノ・ドレッド
ラフィングボートダビットセット

品番: WA-12 / 定価: 1,296円 (税込)
8組
★★★

コスト重視のグレードアップなら、WL小型艦兵装セットがおすすめ

安く手軽に済ませたいなら、WL小型艦兵装セットのカッター・内火艇の全長短縮+「樅」「若竹」のキット付属の通船の組み合わせがお勧め。
この場合、ボートダビットは、細さがほぼ同じだが、キットの物はやや背が低くWL小型艦兵装セットの物がやや背が高いので、ここは好みでよいと思う。

尚、短艇用ダビットは、同じラフィング型でも艦や艦型毎、あるいは同じ艦でもカッター用と内火艇用でサイズが異なる場合も多々あるので、WL小型艦兵装セットが常にオーバースケールという訳ではない

PT旧装備品セットIVは、一見、コスト面で優秀に思えるが、寸法・形状把握ともにキットから一段劣り、ディテールも一長一短なので、こと「樅」「若竹」のキットについては敢えてこれに置き換える意義は乏しい。
WL小型艦兵装セット とほぼ同価格のPT旧装備品セットVもまた然り

完成度重視なら、PT新装備品セットII+ナノ・ドレッド

外形寸法の正確さ+ディテール重視なら、PT新装備品セットIIの内火艇・通船とナノ・ドレッドのボートダビットの組み合わせがお勧め。
カッターは両者甲乙つけがたい。

  • PT新装備品セットIIのカッターは、メリハリのあるモールドでダビット取付穴があり、オールが付属
  • ナノ・ドレッドのカッターは、繊細なモールドでダビット穴なし、舵がモールド済

と、両者それぞれに特徴があるので、ここは好みの問題か。個人的には、ピットロードのメリハリ感が好み。

PT新装備品セットのコストパフォーマンスについて

PT新装備品セットIIには上記の表のとおり、ラフィング型ダビットも付属しており、ナノ・ドレッドには及ばずとも中々シャープなのだが、何故か1セットに2艘分しか入っていない。
よって、PTのダビットで1隻分を揃えようとすると2セット分、4,200円掛かり、却ってナノ・ドレッド併用より高くついてしまう流石に鬼畜過ぎる構成ではなかろうか。

そのあたりを踏まえてか、IIの艦載艇とダビッドの設計を流用して再構成されたPT新装備品セット5については、ダビットの問題は解消され、無駄の出辛い構成になった。
だが、「白露型」~「夕雲型」あたりに最適化されており、今度は通船が入っていない

この問題の解消は、2013年 (平成25年) 8月の時点では発売時期未定の、PT新装備品セット7の発売を待つことになりそうだ。
欲を云えば、八八艦隊系列向けの新装備品セットとして6m級短艇やG型砲を新規開発してくれれば御の字だが、需要的に、かなり望み薄だよなあ。


というわけで、「短艇模型スペシャル」第1回、如何だっただろうか?

今回、手元の雑誌やWeb上の作例を調べてみて、短艇の縁を削ったりディテールを加えたりといった工作をしている記事は多いのに、基本形について言及している記事を見つけられなかったので、少し気合を入れてまとめてみた。あと、今後「若竹型」や「峯風型」などを作る際に、調べた内容が流用できて楽そうだなと ()

記事本文は、8月頭に描き終わっていたのだが、写真撮影と図面の加工、比較図の構成に手間取り、盆休みのほぼ総てを画像づくりに費やしてしまった。
でも、今回、画像1枚じゃね? と思ったでしょ。各短艇ごとの比較画像を作ったら、ページが膨大に伸びて、楽天市場のカニ売り場みたいに縦長になってしまったので、次回に分割したのだよ。

という訳で、まさかの「短艇模型スペシャル」第2回、乞うご期待。


参考ウェブサイト

参考書籍

  • 森 恒英「駆逐艦が搭載した艦載艇」『軍艦メカニズム図鑑 – 日本の駆逐艦』グランプリ出版、1995年、278-281頁 ^4
  • 福井 静夫『海軍艦艇公式図面集』今日の話題社、1992年、124-127頁 ^5
  • 戦前船舶研究会「駆逐艦『秋風』(最終状態) 舷外側面・上部平面」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、139-142頁 ^6

全て敬称略。

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