一次資料無しに色を特定する試み: RLM 65 後篇 – 1/72でJu 87 B「スツーカ」をつくる: 7

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前篇では、各種資料の示すRLM 65の色調とモノクロフィルムの感色性を照らし合わせ、明度と彩度の大まかな範囲を推定した。

後篇では、RLM 76との比較から色相について絞り込み、実際に推定値で試し塗りをして妥当性を検証したいと思う。


前篇に引き続いての長文では流石に読者諸兄もウンザリしていると思われるので、今回はまず試し塗りの結果から。
緑寄りと青寄り、それぞれの明度上下限に、それらの中央値を調合して塗ってみた。
中段左は比較用のMr. カラーのRLM 65で、全体的に既存資料の採る値よりかなり明るく鮮やかな色と推定している。

モノクロフィルムの感色性から推定した、RLM 65の色域 ほぼスカイブルーの「緑寄り・暗め」はともかく、他は意外と「ありそう」な色だと思うのだが如何だろう。

面倒だから結論だけ知ってさっさと塗りたい! と云う方は、とりあえず上記の範囲内ならモノクロ写真の「白っぽいRLM 65」になるはず、と思っていただければOK。

ただ、彩度については、法則性はあるものの値自体は明確な基準を示せず確度が低いので、できればこの値を盲信するのではなく、この法則を使って個々に推定をしていただく方が楽しいんじゃないかと。

さて、結論を急がない方は、これからいつもの長文が始まるよ ()

前回までのあらすじ

  • 既存書籍・ウェブサイトによる推定値の比較
  • モノクロフィルムの感色性からの考察
  • RLM 76との比較
  • ドイツ語文化における色名の示す範囲からの推察

上記の4要素から、RLM 65の色調を考えている。前篇では、上2点について検証し、仮の推定範囲として以下の結論を得た。
また、比較資料の中で矛盾なく推定値の範囲内に収まるのは「ドイツ空軍塗装大全」の1938年色[1] だけである。

最も明るめに解釈した例
RLM 65
5BG 8/2 日塗工見本近似色の平均
無彩色寄りに解釈した例
RLM 65
5B 7.5/1 日塗工見本近似色の平均
ドイツ空軍塗装大全
RLM 65 1938
6.2B 7/3.2 ジッケンス調色値: S0.15.65を修正マンセル値に変換
最も暗めに解釈した例
RLM 65
10B 6.5/6 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均

RLM 76との比較

RLM 76が65より明るい色であったとする説については、各種文献でも異論が見られず、また、後年の世界の制空迷彩の流れを見ても、「見かけの空の明るさ」より明るく彩度の低いグレートーンの色へ移行していったことは想像に難くない。
しかし、前回述べたとおり、モノクロ写真では両者の識別は極めて困難だ。

3./StG.2所属のJu 87 B-1前期型 Stab II./JG.3所属のBf 109 F-4 上写真の下面色がRLM 65で、下写真が76。[2][3]

両者の写真を並べると76の方がやや明るい印象を受けるが、写真の露光具合の影響もあり、単独の写真での識別は難しい。また、65、76ともスピナーや胴体の黄帯より明るく写っている点に注目。

明度は異なるがモノクロでの写真写りはほぼ等しい、この相反する要素をモノクロフィルムの感色性から考えると、RLM 76の方がRLM 65より彩度が低い、もしくはRLM 76の方が緑寄りの色相である場合 (もしくはその両方)、見かけの明度ではRLM 76が明るいにもかかわらず、モノクロ写真では同程度の明度、と云う現象が矛盾なく成立する。

これは、前回触れたとおり、当時のモノクロフィルムに「青は肉眼での見えより明るく、緑は暗く写る」と云う特性がある為である。以下に、前回のモノクロフィルムの感色性の値をまとめた表を再掲する。

「CAMERA」昭和11年8月号掲載のモノクロフィルムの感色性[4]
種別 赤の感色性 緑の感色性 青の感色性
視感度 (肉眼) 15.0 26.0 3.2
パンクロ 10.0 8.3 25.0
スーパーパン 22.2 12.5 16.7
オルソパン 10.0 16.7 16.7

ドイツ語文化における色名の示す範囲からの推察

さて、色相の話題がでたので、ここで両者の色名について触れてみたい。

RLM 65の色名の「HellBlau: ヘルブラウ」は「ライトブルー」と訳されることが多いが、「Hell: ヘル」は英語の「Bright: ブライト」にあたり、「Light: ライト」とは意味が異なる。
「ライト」に対応するドイツ語は、RLM 76に使われている「Licht: リヒト」である。

「ブライト」と「ライト」は等しく「明るい」と和訳されてしまうのだが、ブライトは「鮮明」寄りで、ライトは「白っぽい明るさ」のニュアンスを持つ。

例えば「明るい赤」は「ブライト」で、「鮮やかなピンク」なら「ライト」と云った感じ。

「Hell」と「Licht」の示す色調の違いトーン同士の相関図。[5]「Hell」と「Licht」の感覚的な差は何となく理解いただけると思う。

次に、色名としての「Hellblau」と「Lichtblau」について。

ドイツ語版wikipediaの「Hellblau」は「blau」から独立した個別の色名として扱われており、かつ「Lichtblau」は「Hellblau」の一種として扱われている。

同項の「Hellblau」の示す範囲は青緑から青紫まで比較的広く、単に逐語訳で「明青色」と理解するより、日本語の「青」に対する「水色」の関係に近い、明るめの青系統の総称と理解する方が良いように思う。

一方、「Lichtblau」はもう少し具体的に定義されており、「Hellblau」の中でも緑みの強い、シアン系の水色のみを指すようだ。緑みの無い、青みのみの水色は「Himmelblau」、青紫寄りとなると「Lilablassblau」と、棲み分けが有るらしい (この辺り、自動翻訳頼みなのであまり自信ない)

RLM 76が「HellBlau: ヘルブラウ」の名称を引き継がず「LightBlau: リヒトブラウ」と云う名称になったのは、RLM 65に比べて76の方が緑みを帯びていたからではないか。
緑みを帯びた水色の許容範囲として、RLM 76の色相は、5BGから5B辺りまでだろうか。ここは感覚の差によるところが強いが、ひとまず本稿ではこの範囲として話を進める。

最も緑寄りに解釈した例
RLM 76
5BG 7.5/2 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均
最も青寄りに解釈した例
RLM 76
5B 7.5/2 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均

また、そこから相対的に、RLM 65の色相の範囲は76よりはやや青い緑みの水色から、青みだけの水色の、10BG~5PBの範囲と推定する。

最も緑寄りに解釈した例
RLM 65
10BG 7/3 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均
ドイツ空軍塗装大全
RLM 65 1938
6.2B 7/3.2 ジッケンス調色値: S0.15.65を修正マンセル値に変換
最も青寄りに解釈した例
RLM 65
5PB 7/3 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均

この手のお役所仕事による命名は、往々にして実態と乖離しがちで、これのみを以て色相の根拠にはできないが、他の根拠の補強にはなるか、と云った程度には重みづけをしている。

ここまでの検証に基づく、RLM 65の推定範囲

ここまで検証した結果で、RLM 65と76に求められる要件は以下の通り。

  • RLM 65よりも76の方が明るい
  • 当時のモノクロフィルムは青は明るく・緑は暗く写り、RLM 65と76は、モノクロ写真上では区別が付かないほど近似した明度に写る
  • 上記2点を矛盾なく解消するためには、RLM 65は76より青みを強く含む必要がある
  • RLM 65と76はモノクロ写真では白 (N8.7~9.3あたり) と黄色 (RLM 04: 10YR 7/12あたり) の間の明度に写り、黄色系はモノクロフイルムではやや暗く写る
  • RLM 65と76は、モノクロ写真では晴天の空の色 (理論上、修正マンセルの明度5.5付近) とほぼ同等か、やや明るく写る
  • 参考: RLM 65の色名は日本語で云うところの「水色」に相当する広い範囲を示し、RLM 76の色名はその中でも特に緑寄りの水色を指す名称である

これらすべての条件を満たそうとすると、RLM 76は冒頭の65の想定範囲の内、より高明度域、明度7~8の範囲で解釈するのが無理がない。とすると、RLM 65は76と明らかに明度差が認められる明度6.5~7.5の範囲と見るのが妥当だろう。色相は前述のとおり、10BG~5PBの範囲と推定。

彩度については前回述べたが、今回の推定の中では根拠が弱い。
上限は現実的に量産が利きそうで軍用機に塗られそうな最も鮮やかな色、という妥協点として彩度6。低彩度側は青みを感じられる下限として彩度1

それらの範囲を踏まえ、冒頭の推定域を更に絞ったのが下記である。

緑寄りに解釈した場合のRLM 65の推定範囲

緑寄り・高明度
RLM 65
10BG 7.5/2 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均
緑寄り・低明度
RLM 65
10B 6.5/6 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均

青寄りに解釈した場合のRLM 65の推定範囲

青寄り・高明度
RLM 65
5B 7.5/1 日塗工見本近似色の平均
青寄り・低明度
RLM 65
5PB 6.5/4 日塗工見本帳より推定値の近似色同士の平均

RLM 65の推定範囲の中央値

RLM 65 10B 7/2 日塗工見本近似色の平均

先に述べたフィルムの感色性の関係で、同明度なら緑寄りの方が鮮やかになる。
この値を基に、実際に塗料を調合して塗ってみたのが、冒頭にも掲載したした写真である。

モノクロフィルムの感色性から推定した、RLM 65の色域 モニターの特性にもよるが、Mr. カラーとの比較で大体の感じはつかめると思う。

ふたたび、各種資料との比較

推定範囲を固めたところで、再度各種資料と比較してみる。
比較資料は前回同様、「ドイツ空軍塗装大全」 (以下、「大全」)、「ドイツ空軍機の塗装とマーキング」(以下、「MA増刊」)、「The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945」(以下、「Monogram Painting Guide」もしくは「モノ本」) の3書籍、および、ウェブサイト「CLEARED FOR TAKEOFF」内、「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」 (以下、「CFT」)の4者と、Mr. カラーの専用色。

「ドイツ空軍塗装大全」 「ドイツ空軍機の塗装とマーキング」「The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945」 前回に続いての比較書籍3冊。

前回のRLM 65各種に加え、76のそれを加えてモノクロフィルムで明るく写りそうな順に並べたものが下記。

ドイツ空軍塗装大全
RLM 65 1938
6.2B 7/3.2 ジッケンス調色値: S0.15.65を修正マンセル値に変換
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 76 リヒトブラウ
7.5B 7/2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[6]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 76 1941
2.6BG 7.1/1.2 ジッケンス調色値: P0.05.65を修正マンセル値に変換[7]
Monogram Painting Guide
RLM 76 Richtblau
5B 7/1 添付色票と日塗工見本の比較[8]
GSIクレオス Mr. カラー C117
RLM 76 ライトブルー
7.5BG 6.7/1.5 日塗工見本との比較
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 65 ヘルブラウ
10BG 6/2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[9]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 65 1941
2.5BG 6.1/1.2 ジッケンス調色値: P0.05.55を修正マンセル値に変換[10]
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 76 ライトブルー
7.5BG 6/1.5 添付色票と日塗工見本の比較[11]
Monogram Painting Guide
RLM 65 Hellblau
7.5BG 6/1.5 添付色票と日塗工見本の比較[12]
GSIクレオス Mr. カラー C115
RLM 65 ライトブルー
7.5BG 6/2 日塗工見本近似色の平均値
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 65 ライトブルー
10G 6/1.5 添付色票と日塗工見本の比較[13]

概ね、RLM 76が修正マンセルの明度7付近RLM 65が明度6付近を中心に分布しており、通説通り76の方が明るめとする解釈が大半である。
例外的なのは「塗装大全」のRLM 65 1938年色が明度7と76並に明るい事と、「MA別冊」のRLM 76が65並に暗く、また、「モノ本」の65に極めて近似した色調であると云う事だ。

これらの中で、今回の推定域に収まるのは、やはり「塗装大全」のRLM 65 1938年色のみで、「CFT」と「モノ本」のRLM 76は僅かに範囲を外れるが、推定の精度を考えると、「黄色より白く写るライトブルー」としては成立しうると思う。

それ以外の値は、明度・彩度の不足により、黄色より白く写る可能性は低いとみている。
試料を塗っていて感じたことで根拠は無いのだが、Mr. カラーや各種資料の採用した暗めで緑寄りのRLM 65の色調、中央値の「10B 7/2」が褪色・黄変するとこんな色に化けるのではないかと思った。
もしかしたら、現在大勢を占めるRLM 65の暗めの解釈は、戦後数年~数十年を経て黄変した実機片がネタ元なのかもしれない。

写真だけを見て考察するなら、もっと明るめに解釈するのが自然であり、それを覆すに足る決定打としては、実物の外鈑片くらいしかないのではないか、と。もちろん、私の妄想に過ぎないが。


最後に壮大な電波を飛ばしたところで、今回のネタは終了。前後編にまたがったのにひどい話だ ()
苦しめの部分もあるが、最終的には中央値が意外と違和感の少ない色に落ち着いた、と思うのだが如何だろうか?

試料の作製に当たっては、初回に没にしたフジミのキットがまさかの活躍。プラ板に塗るんじゃ画面上の色見本と変わらんからね。
しかも狙ったように、青寄りと緑寄りの明度上下限に中央値とビン生のMr. カラーと、3機分の主翼を過不足なく消費。何だこの予定調和っぽい数は ()


参考書籍

今回、入手が困難な『The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945』については、時浜次郎氏の好意により同書を借り受けて測色を行った。
この場を借りて、あらためて御礼申し上げます。

  • ミヒャエル・ウルマン「RLM番号とRAL番号・注文番号との対照表」『ドイツ空軍塗装大全』大日本絵画、2008年、86頁 ^1 ^7 ^10
  • 『世界の傑作機 No. 152 ユンカース Ju 87 スツーカ』文林堂、2013年、81頁 ^2
  • Kennth A. Merrick・Thomas H. Hitchcock『The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945』Monogram、1980年、83頁 ^8 ^12
  • 野原 茂「ドイツ昼間戦闘機原色カラーチップ」『モデルアート3月号臨時増刊 ドイツ空軍機の塗装とマーキング VOL.1 昼間戦闘機編』モデルアート社、1988年、93頁 ^11 ^13

参考ウェブサイト

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