一次資料無しに色を特定する試み: RLM 70・71 後篇 – 1/72でJu 87 B「スツーカ」をつくる: 9

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前回に引き続きのRLM 70・RLM 71の色調研究。
今回は実践編として、実際に推定値で調合して塗装したテストピースを用意した。

いざ塗ってみると、以前のRLM 65にも共通する、資料の考証時期による色調推定の傾向が見えてきた。


まずはRLM 65篇と同様、テストピースから御覧いただこう。

モノクロフィルムの感色性から推定した、RLM 70・71の色域 RLM 65と異なり、明度は既存資料とほぼ変わらず。色相と彩度が大きく異なる。

上段は本稿の推定値に、空気遠近法の影響を加味した明度調整を加えたもの。
下段は本稿の推定値そのままに塗ったもの。
中段は比較用にMr. カラーの専用色を塗ったものである。

前篇では2色とも概ね各種資料の推定値内に収まる結論だったが、こうしてテストピースを見るとMr. カラーの専用色に比べて色相や彩度に差異を感じられるだろう。
そこには、前篇で触れなかった2色の彩度についての要素と、RLM 71の一定しない写真写りの明度が絡んでいる。

後篇ではそれを手掛かりに、まずはいつものモノクロフィルムの感色性問題と絡めて彩度を推定してみよう。

RLM 70の彩度の推定

まず、RLM 70については写真に残る明度がほぼ一定している。これは、このあたりの明度では彩度を高めにとっても精々修正マンセルで彩度値2あたりで、感色性による影響を受けにくかったものと思われる。
とはいえ、ほぼ無彩色にしてしまうと、ほぼ同明度かつ、RAL7021準拠で調達も容易と思われるRLM 66で良い訳で、少なくとも両者を並べた際に、明確に色調が異なって見える程度の彩度はあった筈である。

以下に、前回候補に残ったRLM 70の各資料の値と、近似した明度の無彩色、RLM 66の各資料の値を明度順に並べてみる。

Monogram Painting Guide
RLM 66 Schwarzgrau
N 3.5 添付色票と日塗工見本の比較[1]
GSIクレオス Mr. カラー C116
RLM 66 ブラックグレー
N 3.5 日塗工見本近似色
GSIクレオス Mr. カラー C40
ジャーマングレー
N 2.5 日塗工見本近似色、陸軍用グレーで、RAL7021を採用
Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
10GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較[2]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換[3]
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値
ドイツ空軍塗装大全
RLM 66
N 2 RAL7021を修正マンセル値に変換[4]

一方、彩度1以下ではほぼ無彩色の印象で、上記の様にRLM 66と大差なく、わざわざ別の色を制定する必然に乏しいと思える。
故に、RLM 70の彩度は修正マンセルの彩度1.5~2前後と推定。

今回の資料の中で該当するのは、「ドイツ空軍塗装大全」(以下、「大全」)とMr. カラー

RLM 71の彩度の推定

前篇で触れたように、RLM 71はRLM 70に比べると写真によって明度のバラつきが目立つ
それ故、両者の写真写りの差をフィルムの感色性によるものと仮定した場合、RLM71の方が70より高彩度と考えられる。
具体的には、比較的実物に近い明度で写った場合は明るめに、フィルムの感色性の影響が強く出た場合、無彩色や青系の色に比べて暗めに写る

故に、低彩度寄りでもRLM 70よりは幾分鮮やかだったと思われ、高彩度寄り解釈なら、この明度で調合しうる上限の彩度4程度までは考えられる。

以下に、前回候補に残った各資料のRLM 71の色値を明度順に並べてみる。

ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較[5]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換[6]

「モデルアート3月号臨時増刊 ドイツ空軍機の塗装とマーキング VOL.1 昼間戦闘機編」についてはRLM 70同様かなり彩度が低く、RLM 70に比べて感色性の影響が強く出るとは思えない。「大全」は辛うじてボーダーラインか。

では、もっと彩度を高めた場合にどう見えるのだろうか。

Monogram Painting Guide
RLM 62 Grün
5GY 4/1.5 添付色票と日塗工見本の比較[7]
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 62 グリュン
1.9GY 3.6/2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[8]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 62
5GY 3.5/2 RAL6003を修正マンセル値に変換[9]
黄寄り・高彩度
RLM 71
5GY 3/4 日塗工見本近似色の平均値
黄寄り・中彩度
RLM 71
5GY 3/3 日塗工見本近似色の平均値
黄寄り・低彩度
RLM 71
5GY 3/2 日塗工見本近似色
青寄り・高彩度
RLM 71
10GY 3/4 日塗工見本近似色の平均値
青寄り・中彩度
RLM 71
10GY 3/3 日塗工見本近似色の平均値
青寄り・低彩度
RLM 71
10GY 3/2 日塗工見本近似色

上記は、RLM 71より幾分明るい緑という関係性となる筈のRLM 62の各資料の色値と、71の推定値の比較。

このように、同明度でも彩度が上がると見かけ上は明るく感じられるため、彩度値を高めに解釈すると、RLM 63との明暗が逆転して見える可能性もある。

特に、黄色系は色相の特性上、鮮やかになるほど明るさが増して見えるため、5GYあたりまで黄色く解釈するとRLM 70と同じ彩度2辺りとしなければ、RLM 62より暗く見えない。
ゆえに前回、色相の範囲と仮定した5GY~10GYはさらに狭まり、「大全」と同じく概ね10GY前後まで絞れる。
また、青寄りでも彩度4ではRLM 62とほとんど明度差が感じられず、彩度2~3辺りと推測。

ここまでの検証に基づく、RLM 70・71の推定範囲

ここまでの条件を整理しよう。

  • RLM 70と71の明度差≦RLM 70と22の明度差
  • RLM 22: N1~1.5
  • RLM 70: 色相5GY~5G、明度2~2.5、彩度2
  • RLM 71: 色相10GY、明度2.5~3、彩度2~3

実際にはドイツ空軍は修正マンセルで色彩設計をしている訳ではなく、そう単純ではない筈だが、便宜上、RLM 70・71の明度差とRLM 70・22の明度差には0.5以上の違いがあるものとして上記の条件を満たす組み合わせを考える。

RLM 71 RLM 70 RLM 22
最も明るめ 明度3 明度2.5 明度1.5
最も暗め 明度2.5 明度2 明度1
高コントラスト1 明度3 明度2.5 明度1
高コントラスト2 明度3 明度2 明度1

実機写真のRLM 71にモノクロフィルムの感色性の影響がないと考える場合、「高コントラスト2」以外の全組み合わせが成り立つ。

RLM 71の明度のバラつきをモノクロフィルムの感色性の影響と解釈する場合が、「高コントラスト2」。
曇天や汚れ・褪色などでRLM 71の彩度が下がって見える場合、「RLM 70と71の明度差」と「RLM 70と22の明度差」がほぼ等しく見え、晴天下では「RLM 70と71の明度差」≦「RLM 70と22の明度差」となる。

この中で「高コントラスト2」が実機写真の色調のバラつきを最も自然に解釈できるため、本稿の結論はこれとする。

そして前述の通り、RLM71の色相は10GY前後に絞られるため、10GY 3/3近似と推定。
この場合、組み合わせる暗色の色相が黄色に寄るのは色彩調和論の観点から不自然に見えるため、迷彩と云う性質を考えれば同色相か、ベゾルト-ブリュッケ現象を加味した青寄りのアレンジとして5Gあたりまで青みに振れる可能性も考えられる。
故に、RLM 70は10GY~5G 2/2近似だったと思われる。


RLM 71
10GY 3/3 近似: Mr. カラー C129 濃緑色 (中島系)
青寄り
RLM 70
5G 2/2 近似: Mr. カラー C15 暗緑色 (中島系)
RLM 22 N 1 参考: Mr. カラー C92 セミグロスブラック N 1.5
RLM 71 10GY 3/3 近似: Mr. カラー C129 濃緑色 (中島系)
黄寄り
RLM 70
10GY 2/2 参考: Mr. カラー C15 暗緑色 (中島系) 5G 2/2
参考: Mr. カラー C18 RLM 70 ブラックグリーン 10GY 2.5/2
RLM 22 N 1 参考: Mr. カラー C92 セミグロスブラック N 1.5

上記の配色が本稿における結論だが、低明度帯の鮮やかなグリーンは意外と少なく、塗料の調合に苦労するかもしれない。
また、マーキングをデカールに頼る場合、意外と黒が明るいものも多いので、RLM 70と同化しがちなのも難しいところ。実際、今回のテストピースに用いたフジミのデカールは黒がN 2くらい明るかったので、黒い部分を上から塗料でレタッチしている。

スケールエフェクトを考える

RLM 65の場合は、大気による影響を受け辛い中明度・中彩度だったために触れなかったが、このあたりの暗めの色彩では離れてみた際に大気の影響でやや明るく見える。
模型との視距離と縮尺率の関係については、以前まとめたことがあるので詳しくはそちらを見ていただきたいのだが、大雑把に云えば、今回取り上げた明度3以下の低明度域では、1/72だと0.5位明度を上げると自然に見える。上記の各推定値にそれを反映させてみたのが以下。

空気遠近法を加味
RLM 71
10GY 3.5/3 参考: Mr. カラー C126 コクピット色 (三菱系) 5GY 3.5/2
青寄り・空気遠近法を加味
RLM 70
5G 2.5/2 参考: Mr. カラー C15 暗緑色 (中島系) 5G 2/2
空気遠近法を加味
RLM 22
N 1.5 近似: Mr. カラー C92 セミグロスブラック
空気遠近法を加味
RLM 71
10GY 3.5/3 参考: Mr. カラー C126 コクピット色 (三菱系) 5GY 3.5/2
黄寄り・空気遠近法を加味
RLM 70
10GY 2.5/2 近似: Mr. カラー C18 RLM 70 ブラックグリーン
空気遠近法を加味
RLM 22
N 1.5 近似: Mr. カラー C92 セミグロスブラック

スケールエフェクトを考慮した場合、Mr. カラーのRLM 70はかなり的確な色なのが判る。
RLM 71の方はズバリの近似色を見つけられなかったが、この明度のグリーンはMr. カラーに割と多いので、さほど苦労しない筈。

最後に、Mr. カラーの該当色との比較。

GSIクレオス Mr. カラー C17
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3.5/1 日塗工見本近似色
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値
GSIクレオス Mr. カラー C92
セミグロスブラック
N 1.5 日塗工見本近似色

これらの推定値に基づき実際に調合して塗ってみたのが、冒頭の写真である。

モノクロフィルムの感色性から推定した、RLM 70・71の色域 RLM 70は低明度の割には色相差による印象の違いが大きい。

上記比較の通り、Mr. カラーの専用色はRLM 65がほぼ別物だったのに比べれば色差は少ないが、RLM 70の彩度が低めで色相が黄色寄りである。
RLM 70の明度や、71の色調については、本稿の結論とあまり変わらない。

また、ベタ塗りのデータではピンとこなかったと思うが、実際に塗ってみた写真ではRLM 71を同色相のまま暗くした黄色寄りのRLM 70より、前述のベゾルト-ブリュッケ現象を加味して色相をずらした青寄りのRLM 70の方が71に近い色相に感じられるのが判るだろう。

それゆえ、迷彩が自然に見えるのは青寄り解釈のRLM 70だが、色名の「シュバルツグリュン」=「黒緑」の語感に近いのは黄色みの影響で濁って見える黄色寄りのRLM 70か。
これは、どちらが妥当とも判断がつかなかったので、両者の塗装見本を掲載した。この程度の差であれば、製造上のバラつきの範疇に収まりそうな気もするので、どちらが正解、と断じずとも、好みで塗ってしまって良いと思う。


黄色寄り解釈の資料は、経年による黄変を含んだ値なのでは?

ここで、前々回のRLM 65の比較結果を思い出して頂きたいのだが、括りに「現在大勢を占めるRLM 65の暗めの解釈は、戦後数年~数十年を経て黄変した実機片がネタ元なのかもしれない」と書いた。
その時点では、単なる直観での発言だったのだが、RLM 70・71での結論もまた、Mr. カラーの専用色は黄色みが強く、低彩度であった。

とすればやはり、Mr. カラーの準拠資料と思われる「モノ本」や「MA増刊」などの比較的古典寄りの資料は、経年で黄変した実機片もしくは、色焼けしたカラー写真に準拠した色調なのではないだろうか。

写真は戦後数十年を経たBf 110C。もはや65/70/71なのか74/75/76なのかすら判別がつかない状態だが、当時の塗料が全体に黄色く淀んで劣化してゆくのはお判りいただけるだろう。

「ドイツ空軍塗装大全」あたりから、色調考証に新たな潮流が生まれた?

Monogram Painting Guide
RLM 71 Dunkelgrün
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較
Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
5G 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換

彩度についての解釈は異なるものの、「大全」の記述も本稿と同じく従来説より黄色みの少ない緑である。
また、正確な色調再現を意図したものではないと思われるが、今世紀になって出版された「オスプレイ軍用機シリーズ ユンカースJu87シュトゥーカ1937-1941」の表紙や「世界の傑作機 No. 152 ユンカース Ju87 スツーカ」掲載の塗装図の色調も同様である。

「ドイツ空軍塗装大全」 「ドイツ空軍機の塗装とマーキング」「The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945」 各資料とも明確に言及はされていないものの、色調については「大全」の原書の影響が強いのかなあと思う。

また、タミヤのサイトに掲載されている、タミヤイタレリ版Ju 87 Bの完成見本もハセガワやフジミのJu 87系キットのMr. カラー準拠による色指定に比べるとかなり明るく鮮やかだ。
これはタミヤのキットに時々ある「タミヤカラーの都合に合わせた代替色」だと思っていたのだが、あるいは近年の考証を踏まえた色指定なのかもしれない。

タミヤの完成見本 最初は、キットの指定は82/83迷彩と混同したんじゃないかと思ってたが……。

それらを総合して勘案すると、「大全」に代表されるやや青みの色調を塗装直後、Mr. カラーの色調を褪色後とみて、その範囲内で「機体の想定コンディションに応じて黄変加減を設定する」と云うアプローチが考えられる。

例えば、同じJu 87 Bでも、配備間もないポーランド戦あたりならば彩度高めのフレッシュな緑で塗り、大戦末まで生き残ったベテラン機想定ならば本体をMr. カラーの専用色、パッチなどの修復痕や爆弾などの消耗品を新品風の緑にして差別化する、などと云った遊びも面白いのではなかろうか。


参考書籍

  • Kennth A. Merrick・Thomas H. Hitchcock『The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945』Monogram、1980年、13頁 ^1、83頁 ^2、73頁 ^7
  • ミヒャエル・ウルマン「RLM番号とRAL番号・注文番号との対照表」『ドイツ空軍塗装大全』大日本絵画、2008年、86頁 ^3 ^4 ^6、85頁^9
  • 野原 茂「ドイツ昼間戦闘機原色カラーチップ」『モデルアート3月号臨時増刊 ドイツ空軍機の塗装とマーキング VOL.1 昼間戦闘機編』モデルアート社、1988年、93頁 ^5

参考ウェブサイト

すべて敬称略。

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