一次資料無しに色を特定する試み: RLM 70・71 前篇 – 1/72でJu 87 B「スツーカ」をつくる: 8

RLM 65篇に続き、緒戦のJu 87 Bの上面色であるRLM 70・71の色調について検証する。前回同様、既存資料の推定値の比較と、近似する色との関係性、モノクロフィルムの感色性など、複数の視点から考えてみたい。

例によって記事が長くなってしまったので前後篇でお届けする。RLM 65に比べると実機写真と資料や模型用塗料で明度の乖離が無く、あっさり検証できそうに思えたのだが、果たして……?

2015年10月19日修正: Mr. カラーC17、C18の測色値を修正。


今回の検証のポイントは以下の3点、前篇では上の2つについて考察する。

  • 既存書籍・ウェブサイトによる推定値の比較
  • 明度の近い、RLM 22・RLM 62との比較
  • モノクロフィルムの感色性からの考察

既存書籍・ウェブサイトによる推定値の比較

さて、まず1番目の各種資料比較から。

前回同様、「ドイツ空軍塗装大全」 (以下、「大全」) と、「ドイツ空軍機の塗装とマーキング」(以下、「MA増刊」)、「The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945」(以下、「Monogram Painting Guide」もしくは「モノ本」) の3書籍、および、ウェブサイト「CLEARED FOR TAKEOFF」内、「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」 (以下、「CFT」)の4資料を比較する。
また、資料ではないがGSIクレオスの専用色が存在する場合は、それも比較材料として扱うのも同じ。

「ドイツ空軍塗装大全」 「ドイツ空軍機の塗装とマーキング」「The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945」 前回に引き続きの、比較書籍3冊。

各種資料の選定や、カラー写真を検証材料としない理由は前回を参照されたい。
また、「大全」には印刷による色見本と、RAL番号やジッケンス調色値で示された文字情報のふたつの色情報が掲載されているが、印刷見本の方は原書や英語版では塗装されたカラーチップだったものが、邦訳版では全く違った色で印刷されてしまっている

「ドイツ空軍塗装大全」日本語版と英語版の色票 カラーチップの写真は海外サイト[1] から。元写真の青カブリを手修正したためオリジナルの色調とは異なるが、左の筆者所有の日本語版の印刷色があてにならぬ事はお判り頂けると思う。

ゆえに本稿では、文字情報から得られた色値を修正マンセル値に変換して扱う

以下は、各資料の推定値を修正マンセル値に当てはめ、資料の発表順に並べたもの。
2色の関係性も併せて比較したいので、70と71は資料毎に対にして掲載した。
閲覧環境に左右されやすいので、背景色はまあ参考程度に。

Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
10GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較[2]
Monogram Painting Guide
RLM 71 Dunkelgrün
5GY 3.5/1 添付色票と日塗工見本の比較[3]
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 70 ブラックグリーン
5GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較[4]
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較[5]
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値
GSIクレオス Mr. カラー C17
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3.5/1 日塗工見本近似色の平均値
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換[6]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換[7]
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 70 シュバルツグリュン
6.4GY 2.8/1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[8]
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 71 デュンケルグリュン
6.2GY 3.5/1.1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[9]

「大全」のRAL色票から修正マンセルへの置換は、「日塗工ペイントカラー検索システム」を使用した。(以降全て同)

上記の内、「CFT」は「大全」の値を採用しているので、近似マンセル値も同一となる筈だが、変換方法が異なるため値も異なっている。どちらがより正確なのかはRALの色見本を入手しない限り検証不可能なので、とりあえず両者併記しておく。
表色系間での変換の難しいところだ。また、「CFT」の値は見易さ優先で小数点2位以下を四捨五入している。

全体の印象としては、RLM 65ほどのバラつきは無い。次に、明度順に並べてみる。

CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 71 デュンケルグリュン
6.2GY 3.5/1.1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値
GSIクレオス Mr. カラー C17
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3.5/1 日塗工見本近似色の平均値
Monogram Painting Guide
RLM 71 Dunkelgrün
5GY 3.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 70 シュバルツグリュン
6.4GY 2.8/1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値
Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
10GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 70 ブラックグリーン
5GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値

見かけ上では「大全」のRLM 71は「モノ本」「MA増刊」より明るく感じられるが、モノクロフィルムでは感色性の影響で暗く写る筈。

色値の順に並べると、各資料の近似がより顕著になる。特にRLM 71については日塗工色見本で測定できるレベルでは、「モノ本」と「Mr. カラー」、「CFT」が、それぞれほぼ同一と云っても良いほど似ている。

各資料の示す色の範囲は下記の通り。

  • RLM 70: 色相5GY~10GY、明度2.5~2.8、彩度1~1.5
  • RLM 71: 色相5GY~10GY、明度3~3.5、彩度1~2

森林地帯での迷彩である事を考えた場合、植物の緑が概ね色相4.8GY前後と云われており、また、ベゾルト-ブリュッケ現象により緑色の物体は影になるほど青みを帯びる。故に、影色に当たる範囲も考慮すればこの色相域は妥当に思われる。
また、それ以上の検証材料が無いため、色相については、上記資料の示す範囲内のものとして考えることにする。

ドイツの森林 英語版ウィキペディア[10] より、ドイツの「黒い森」。手前の森は、黄色みの強い暗い緑だ。

明度と彩度については、例によってモノクロフィルムの感色性問題があるので後篇で詳述する。

RLM 70や71に近い明度で写真に写る色について

「大全」掲載の同時代資料ではRLM 70・71とも、RLM 65と同様に対応RAL番号の記載が無いため、直接的に色調を知る術がない。
そこで、周辺の色との比較から、ある程度色を特定できないか検証してみた。

RLM 65の場合は、明度の絞り込みに、明度の近く写る黄色と白を比較対象としたが、RLM 70・71の場合、比較対象となるのは何か。

まず、マーキング類に使われた黒、「大全」によれば独空軍の黒塗料RLM 22はRAL9004に相当し、N 1~1.5相当のやや明るい黒である。

Monogram Painting Guide
RLM 22 Schwarz
N 1.5 添付色票と日塗工見本の比較[11]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 22
N 1.5 RAL9004を修正マンセル値に変換[12]
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 22 シュバルツ
9.4P 1/0.2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[13]

そして、65/70/71迷彩の先代にあたる、61/62/63/65迷彩における緑色のRLM 62「グリュン」。英語における「グリーン」に相当する色名である。
「大全」によれば、同時代資料ではRAL6002相当と記載されているが、著者のウルマン氏によればこれは誤植で、実際はRAL6003相当とのこと。
色名の印象に比べて暗く濁った緑で、日本人の感覚ではただの「グリーン」と云うより「ダークグリーン」「モスグリーン」と評したくなるような色である。

Monogram Painting Guide
RLM 62 Grün
5GY 4/1.5 添付色票と日塗工見本の比較[14]
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 62 グリュン
1.9GY 3.6/2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値[15]
ドイツ空軍塗装大全
RLM 62
5GY 3.5/2 RAL6003を修正マンセル値に変換[16]

RLM 22との明度差から考える、RLM 70の明度

現存する写真で印象的なのは、RLM 70・71の区別が付かない写真でも、70と黒の区別が付く写真は多いが、その逆、70・71の境目は明瞭だが、70と黒の境目が曖昧な写真は無い
もしかしたら有るのかもしれないが、私は見つけられなかった。
すなわち、モノクロフィルム上では「黒と71の明度差」>「70と71の明度差」と云う事だ。

RLM 70とRLM 71の明度差が不明瞭な例 写真はJu 88。識別記号の輪郭は判るが、緑2色の差は曖昧。このパターンの写真が多い。[17]

RLM 70とRLM 71の明度差が明瞭な例 写真はFw 200。識別記号だけでなく緑2色の境界も鮮明。このパターンの写真は少な目。[18]※2017/7/22追記: 下記西川氏のコメントにあるように、この塗装はRLM72/73パターンの可能性が高い。確実に70/71と思われる例はほぼ上記の低コントラストパターンに当てはまる。

上写真で判るように、N 1~1.5の範囲であるRLM 22と、RLM 70との間には、同化はしないが文字等の視認には不便な程度の明度差、恐らく1~1.5程度の明度差があると考えられる。すなわち、RLM 22との関係性から推定されるRLM 70の明度は2~3あたりだ。

CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 70 シュバルツグリュン
6.4GY 2.8/1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 70 ブラックグリーン
5GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
10GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値
Monogram Painting Guide
RLM 22 Schwarz
N 1.5 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 22
N 1.5 RAL9004を修正マンセル値に変換
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 22 シュバルツ
9.4P 1/0.2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値

上記の通り、各資料の値は全て明度2~3の範囲に含まれる。

RLM 62の名称から考える、RLM 71の明度

前述のとおりRLM 62の名称は単純な「グリュン」で、RLM 71は同色の後継にあたり、その名称は「デュンケルグリュン」、英語で云うところのダークグリーンだ。
この「デュンケル」が何に比べてか、と考えれば、直前まで同用途に使われていたRLM 62に比べてと解釈するのが自然であり、RLM 71は62と並べた際には明確に暗かった筈だ。

Monogram Painting Guide
RLM 62 Grün
5GY 4/1.5 添付色票と日塗工見本の比較
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 62 グリュン
1.9GY 3.6/2 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値
ドイツ空軍塗装大全
RLM 62
5GY 3.5/2 RAL6003を修正マンセル値に変換
CLEARED FOR TAKEOFF
RLM 71 デュンケルグリュン
6.2GY 3.5/1.1 「第2次世界大戦軍用機の塗色に関する研究」採用値
GSIクレオス Mr. カラー C17
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3.5/1 日塗工見本近似色の平均値
Monogram Painting Guide
RLM 71 Dunkelgrün
5GY 3.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換

この2色の色調と名称の相関については、前回の「ヘルブラウ」と「リヒトブラウ」の関係と同様のネーミングと私は考える。
よって、明度値3.5~4のRLM 62に対し、最低でも1以上の明度差があるとみて、RLM 71は概ね明度3以下と推定する。
これより少ない明度差であれば、RAL規格に存在して調達が容易だったはずのRLM 62を捨て、わざわざRAL規格に無い新色を作る意義が薄いと思えるからだ。
上の比較の通り、「CFT」や「モノ本」、Mr. カラーくらい明るめの解釈を採るとRLM 62とほぼ同色に見え、褪色が始まると全く区別が付かないのではなかろうか。

RLM 70とRLM 71の明度差の推定

RLM 70とRLM 71の明度差については、前述の通りRLM 70とRLM 22の明度差より少なく見えるので、明度差は0.5~1あたりか。
すなわち、RLM 70を最も暗く解釈した場合、RLM 71の明度の下限は2.5あたり。従って、前述のRLM 62との相関と併せ、RLM 71の明度は概ね2.5~3の範囲となる。

また、RLM 71の明度上限が3付近のため、前述のRLM70の明度上限3は成り立たず、総合するとRLM 70の明度は概ね2~2.5の範囲となる。

ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 71 ダークグリーン
5GY 3/1 添付色票と日塗工見本の比較
ドイツ空軍塗装大全
RLM 71
10GY 3/2 RAL-DESIGN 130 30 10を修正マンセル値に変換
ドイツ軍用機の塗装とマーキング
RLM 70 ブラックグリーン
5GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
Monogram Painting Guide
RLM 70 Schwarzgrün
10GY 2.5/1 添付色票と日塗工見本の比較
GSIクレオス Mr. カラー C18
RLM 70 ブラックグリーン
10GY 2.5/2 日塗工見本近似色の平均値
ドイツ空軍塗装大全
RLM 70
10GY 2.5/1.5 RAL-DESIGN 130 20 10を修正マンセル値に変換

ここまでの推定を元に絞り込んだのが上記。明るめ解釈である「CFT」の70・71、「モノ本」Mr. カラーの71以外の全資料が合致する。


この段階では、各資料の値をそのまま結論として全く問題無いように思えるが、記事中に掲載したJu 88とFw 200の様に、RLM 70や22に比べてRLM 71は写真写りの明度が一定しないことに説明がつかない。後篇では、モノクロフィルムの感色性を糸口に、合理的な解釈を求めてみたいと思う。
例によって、検証そのものは終わっているので、気候が回復次第、試し塗りの写真と共に後篇をお届けできる筈。乞うご期待?


参考ウェブサイト

参考書籍

  • Kennth A. Merrick・Thomas H. Hitchcock『The Official Monogram Painting Guide to German Aircraft 1935-1945』Monogram、1980年、83頁 ^2 ^3、11頁 ^11、73頁 ^14
  • 野原 茂「ドイツ昼間戦闘機原色カラーチップ」『モデルアート3月号臨時増刊 ドイツ空軍機の塗装とマーキング VOL.1 昼間戦闘機編』モデルアート社、1988年、93頁 ^4 ^5
  • ミヒャエル・ウルマン「RLM番号とRAL番号・注文番号との対照表」『ドイツ空軍塗装大全』大日本絵画、2008年、86頁 ^6 ^7、85頁^12 ^16

すべて敬称略。

「一次資料無しに色を特定する試み: RLM 70・71 前篇 – 1/72でJu 87 B「スツーカ」をつくる: 8」への2件のフィードバック

  1. Fw200の場合はRLM70/RLM71の迷彩塗装ではなく、海上で作戦する航空機に適用されるRLM72/RLM73塗装なので明暗がはっきり判る場合が多いと言われていますので、再度確認されてはいかがですか。

  2. 西川様
    はじめまして、ご指摘ありがとうございます。
    あらためて、72/73塗装が確実なAr 196やDo 18の写真と見比べてみましたが、確かにこのコントラスト比は典型的なモノクロに写る72/73のパターンのように思われます。
    もういちど前提を変えて検証し、改稿したいと思います!

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