書評: 模型中級者のための、「ガンプラ凄技テクニック」シリーズのすゝめ

| カテゴリィ: 雑記

ホビージャパンムック「ガンプラ凄技テクニック」シリーズは、所謂「簡単フィニッシュ」を主題としているが故に全塗装が当たり前の中級者以上のモデラー諸兄にはスルーされている方も居られるのではなかろうか。だが、本書はただの初心者ガイドにとどまらず、模型の基礎を身に着けた中級者以上だからこそ役立つ視点があるのだ。


2019年に出版された「ガンプラ凄技テクニック」は、HJ誌の編集氏曰く「模型誌ムックとしては異例の大ヒット」だったらしく、昨年末に続編であるHG編が刊行された。著者の林哲平氏は、以前にも触れたが実は私の学生時代の模型サークルの後輩で (故に、本稿でも以下「林君」と呼ぶ) 、その縁でシリーズ2冊とも献本貰ってたりする。

ガンプラ凄技テクニック表紙先輩権限で1冊目はサイン本にして貰った。超絶器用なのに、それを感じさせない筆跡である (失礼)

と云う訳で、本稿はステマならぬダイマである () と、いきなり余計なことを書いたのは、たぶん林君が送ってくれなければ、或いは、別の著者だったら、初心者向けっぽい書名だけ見てスルーしてただろうな、と云うのがあり、なんで唐突にこの書評なの? と云うところで読者諸兄が引っかかってしまわれないように、あらかじめ告白しておくのである。

とは云え、後輩のよしみで提灯書評を書くのは彼に失礼な話で、また、私自身1巻目が大変気に入っており、貰った1冊とは別に布教用に数冊買って方々に貸したり寄贈したりするほどなので、2巻目の出たこのタイミングで、何が良いのか形に残る記事にしておこうと思ったのだ

ゆえに、本稿では基礎的な工作や各種素材の扱いのような、純然たる初心者向け要素については触れない。これらにの要素ついては今更こんな僻地のブログで語るまでもなく、SNSやアマゾンレビューなどで実際の初心者の生の声を読む方が判りやすいだろう。

ロジカルな観察と平易な再現

本シリーズでは、かつて一世を風靡した「近藤風仕上げ」(懐かしい!) や、近年SNSで流行の「イラスト風模型」、或いはHJ誌の他モデラー名を冠したものなど、作家性の高い表現をどのように再現するか、と云う作例が幾つか収録されている。

林周市氏風仕上げ敢えて写真の画質は下げてるので、ぜひ紙面を手に取って見て欲しい。SA誌で活躍中の林周市氏の手法を採り入れたりと、新刊ではガンプラ系以外からもネタを拾ってきている。

例えば、HG編の「イラスト風模型」ではまずモチーフイラストの選び方から始まり、絵からの色の拾い方など、直接の塗装作業以外のパートに大きく紙面を割いており、最後に模型がイラスト風に見える理屈を解説して締めている。

「なぜそのように見えるか」と云う理屈が無くても記事は成立するが、それを理解することで各工程の意図が見えてくる。中級者以上の人にとっては、ここを読むことで再現の各工程が何故そうなったのか、と云うのが判る構成だ。

また、彼の作品で特徴的なのは、林君の作例はマテリアルや道具が恐ろしく普通 (タミヤのウェザリングマスターなどの大手メーカー品と、ホームセンターや百均グッズが主で、東急ハンズのない地方民にも優しい) で、かつ初心者向けと云うことで器用さへの依存度が低いと云う点。

こうした表現技法の解説は、作者自身による解説記事ならばネットでも紙媒体でもそれなりにあるが、本書では一旦林君のフィルターを通すことで原作者の器用さに帰する要素や手癖などを差し引いた特徴的な部分のみが抽出されている。そしてそれらが「誰でも手に入る道具と素材」かつ「平易な技術」で再現されている。それは、これらの表現をそのまま取り入れる時のみならず、他者の作品の表現を真似てみたいと思った時、モチーフをどのように見、そして再現するのかと云う流れをイメージするのにも役立つだろう。

2冊を対照することでスケールによる表現の限界が見えてくる

こちらは些か意地の悪い視点だが、無印は1/100、HG編は1/144と、作品のサイズにして約1.5倍の差がある。それを頭に入れたうえで同系統の仕上げを比較してみると、道具や素材の限界と云うのが見えてくる。判りやすいのが無印のズゴックとHG編のゴッグで、両者同じ技法で仕上げたものを、ほぼ同サイズに写した写真で比較できる。

MGズゴックとHGゴッグこちらも敢えて写りを悪くしている。同一人による同一技法でのスケール違いを、同サイズにして比較できる機会も中々ない。

同一人物が1年前後の間隔で製作、と云う点では技術的な面ではほぼ等しいとみて良いだろう。むしろ後発のゴッグの方が、経験値が上がっている分仕上がりは優れる筈だが、例えば汚れの流れた部分の表現など、1/144では筆の穂先の幅や、塗料だまりの大きさが生々しく感じられてしまう

これは作品単体で見ているとさほど気にならないのだが、1/100と同サイズの写真で見較べると非常に判りやすいのだ。すなわち、実際の製作にあたっては、1/144の方に不自然さ・わざとらしさが目立つ部分こそが、表現の際に細心の注意を払うべき点である。こうした比較作業を自ら試すまでもなく鮮明な写真で行える、と云うのは時間的にも金銭的にもありがたい。


確か以前、ツィッタァに書いたと思うのだが、林君と云うのは非常に眼の良い男で、それはもちろん視力の話ではない。彼の得意とするミキシングビルドに顕著だが、実現したい表現のために重要な要素はなにか、と云うのをモチーフから読み取るのが上手いのだ。

それに加え技術力自体も高く、彼を初めて知ったのは20数年前だが、その時のことは未だに鮮明に覚えている。私と林君は5つ違いで、私が大学を出たのと入れ違うようにして模型サークルに新入生として入ってきた。
そして彼が入った年の展示会に私がOBとして行ったとき、馴染みの後輩がえらく興奮気味に「春園さん、凄い新人が入ってきたんですよ」と云う。なんでも人間の赤ん坊くらいの大きさで量産型ビグザムをフルスクラッチした1年が居る、と。それが林君である。

そんなレベルの男なので、普通にスペックの高さを活かした超絶技巧系モデラーとしても充分やっていけると思うのだが、それだけの技術を持ちつつ、巧みにポイントを押さえた初心者向け技法本を書けるあたり、やはり彼は物をよく見てるな、と。
技巧派のモデラー諸氏の中には、手で簡単に再現はできてもそれを言語化するのは不得手 (プロモデラーの中には、原稿字数が多すぎて埋まらない、と云う、いつも字数を削るのに苦慮している私からすると羨ましい悩みをしばしば見かける) と云う人は少なくないが、ここまで多彩な引出しを見せつついずれも平易に解説できる、と云うのは、彼の観察と分析の巧さの賜物だと思うのだ。


書籍情報

林 哲平『週末でつくるガンプラ凄技テクニック ガンプラ簡単フィニッシュのススメ 』ホビージャパン、2019年

林 哲平『週末でつくるガンプラ凄技テクニック ~ガンプラ簡単フィニッシュのススメ~HG編 』ホビージャパン、2020年

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