駆逐艦の艦尾は、密度が肝要 – 1/700で樅型駆逐艦をつくる: 15

資料が乏しい為か、ハセガワの「樅」のキットは艦尾がかなりアッサリしている。確実に判るだけの要素では寂しいので、推定込で、できる限りディテールの密度を上げてみた。

駆逐艦の艦尾は、密度が肝要今回は、各艦共通の艦尾兵装について。
ひたすら地味な上、キットパーツでは殆ど再現されていないし、資料も少ないという三重苦。
だが、きっちり作り込んでみると、駆逐艦ならではの密度感が出て、中々良い感じだ。


機雷敷設軌条と甲板上の諸装備

ハセガワ製の1/700駆逐艦「樅」をベースにした、「栂」「栗」「蓮」各艦共通の艦尾兵装: その1
機雷敷設軌条は0.2mm真鍮線あたりを使った方が良かったかも。

共通の艦尾装備で最も目立つ機雷敷設軌条は、プラストラクトの0.3mm丸棒で製作。
角棒を使わなかったのは、丸棒の方が細く見えるから。
それでもやや太いので、3本並列に接着した後、エッチングソーで両脇から細くしてみたが、不充分だった模様。
結果、後述の副錨まわりの配置にかなり難儀する羽目になった

軌条の脇の両舷側にボラードが一対ずつある。
森恒英氏の軍艦雑記帳では駆逐艦用は直径350mmと書かれているが、どうも主砲などと見比べるともっと細くにみえる。
また、準同型の「若竹型」の「芙蓉」公式図[1] 上でも、もっと細めに描かれているので、0.3mmで作り直してみるとしっくりきた
軍艦雑記帳の刊行当時、WLシリーズで二等駆逐艦はキット化されておらず、シリーズ的には駆逐艦=一等駆逐艦だったので、森氏の記述は一等駆逐艦の値なのかもしれない。

軌条の間にある装填演習砲は、キットパーツでは大きすぎるので、ピットロード (以下、「PT」) の「新 WWII日本海軍艦船装備セット [1]」の25mm単装機銃の銃身を切り詰め、機関部上半分を切り飛ばしてソレっぽい形にした。
大して手間もかからない割には結構似た感じに仕上がるので、大戦後期の艦を作る予定が無く、単装機銃が余りがちな人にはおススメの工作。

ハセガワ製の1/700駆逐艦「樅」をベースにした、「栂」「栗」「蓮」各艦共通の艦尾兵装: その2
ハセガワのエッチングは値段が手頃で良いのだが、矢鱈硬いのが玉に瑕。

絡車 (リール) は、PTの「新 WWII日本海軍艦船装備セット [4]」のものが、形状・大きさとも手頃なのだが、入り数が少なく、全てをこれで統一すると金銭的に厳しい。
幸い、G型砲の際に使った旧シリーズの「日本海軍艦船装備セット [IV]」には、モールドが甘いものの、駆逐艦サイズの絡車が沢山入っているので、これの索部分を整形してハセガワの絡車セットのエッチングパーツと組み合わせた。両者、測ったように直径がぴったりである。

大正時代建造艦で印象的なキセル型吸気筒は、停泊中以外は取り外していることが多いようだが、完全に収納している写真と甲板上で倒しているだけの写真がある。
今回は航海中か戦闘中として製作しているので、収納状態とし、吸気筒取付口に蓋があるようなので、エバーグリーンの0.5mmプラ棒の輪切りを接着した。
イメージ的には合戦準備では収納のような気がするが、1928年の「蓮」の上空写真[2] のように戦闘旗が揚がっている状況でも倒しているだけの場合もあり、合戦準備=収納とは限らないようだ

各部の昇降口や艙口は、ハセガワ製エッチングの水密扉セットを使用。
昇降口は厚みを出すために折りたたんで重ねるようになっているが、素材が硬く弾力で浮いてしまうので、天幕枠と上面だけ使用し、厚み部分はエバーグリーンの0.25mm×1mmプラ棒を貼って処理した。
艙口も同じ要領で、水密扉+0.25mm×1mmプラ棒で再現。

艦尾副錨甲板まわり

ハセガワ製の1/700駆逐艦「樅」をベースにした、「栂」「栗」「蓮」各艦共通の艦尾兵装: その3
写真で見ると、副錨の形状がバラバラなのが気になる……

艦尾副錨甲板 (最後尾の鉄張り部分を便宜上そう呼ぶことにする) 上は、明瞭に写っている写真が手元に無く、前述の「芙蓉」の図面を参考にした。
よって、3隻でつくり分けられる要素が無く、同じ処理にしてある。

「芙蓉」の図面では両舷に爆雷投下台があるので0.5mm幅のプラストラクトで再現した。
ただし、前述のとおり「樅型」「蔦型」とも明瞭な写真が無く、未装備の可能性もある。

キットには副錨が付属していない。
頼みの綱のナノドレッドも、モールドは良いが図面と比べると大きすぎる。
ここはオーバースケールには目を瞑りたいところだが、前回の爆雷投射機同様に配置スペースに制約があり、ナノドレッドの物でも両脇の機雷敷設軌条と干渉してしまう

これ以上小さな部品を探すのも却って手間だし、予算も無限ではないので、プラストラクトの0.3mm丸棒を加工して自作した。
実際にやってみると、思ったほど難しくは無かったが、とにかく小さいので、切り出しても切り出しても部材を飛ばして紛失してしまうのに難儀した
図面では、副錨のすぐ横に副錨や機雷を揚収するためのダビッドが格納されているようなので、これも先の副錨の要領で自作。
やはりこれもナノドレッドやピットロードの新装備品セットですら大きすぎるのだ。
「若竹型」の「朝顔」の写真[3] などをみると、ダビッドを取り外しても円錐形の台座部分は甲板に残るので、適当な単装機銃か何かの部品の台座部分を加工して使用した。

1937年 (昭和12年) の「朝顔」の艦尾付近の写真から、艦尾兵装を読み取る
「朝顔」の他、「蔦型」の「藤」でも同様の形状のフェアリーダーが確認できる。

艦尾副錨甲板末端にフェアリーダーがあり、これも先の「朝顔」などの写真から、一般的な鋳物っぽい一体型ではなく、内側の索が通る部分が滑車状になっている構造の模様。
当初、プラストラクトの0.5mm丸棒を削って再現してみたが、どうもそれらしくないので、0.3mm丸棒の上面と側面を0.5mm幅プラストライプで囲うという面倒くさい方法で再現してみた。
出来栄えは満足いくものになったが、写真だと全然わからない ()


冒頭で触れたとおり、駆逐艦の魅力の一つは、戦艦や巡洋艦に比べ、狭い船体にみっしり装備を詰め込んだ高密度感だと思う。
そういった意味では、艦尾兵装の辺りは中々模型的な見せ場になると思ったのだが、現状、素組状態で密度が感じられるキットは少ないように感じる。精々、爆雷投下軌条と旗竿がパーツ化されているくらいで。
オーバースケールの滑り止めパターンを入れるくらいなら、甲板一体成形でも艙口扉や副錨のモールドをしっかり立体的に彫刻してくれればなあ、と思うのだが、少数派なのかな。
ま、モールド無けりゃ、自分で作ればいいんだけどサ。


参考書籍

  • 福井 静夫『海軍艦艇公式図面集』今日の話題社、1992年、124-127頁 ^1
  • 中川 務「八八艦隊計画の駆逐艦」『日本駆逐艦史 世界の艦船 1992年7月号増刊』海人社、1992年、61頁 ^2
  • 梅野 和夫・戸高 一成「『特設巡洋艦・二等駆逐艦・特設艦船』写真説明」『写真 日本の軍艦 第14巻 小艦艇II』光人社、1990年、145頁 ^3

全て敬称略。

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