全体のシルエットにこだわった14cm単装砲を目指す – 1/700で天龍型軽巡をつくる: 11

全体のシルエットにこだわった14cm単装砲を目指す

前回に引き続き、14cm単装砲の砲盾についての調査、と今度こそ製作編

14cm単装砲だけの話題で3本も記事が読めるのは、「燕雀洞」だけ! ()


今回触れる、14cm単装砲の波除鈑だが、準拠資料によって表記ゆれがあり、「波除」「波除鈑」「防水鈑」などの表記が見受けられる。
本稿では便宜上、原典の表記にかかわらず、「波除鈑」と統一表記することとする。

砲盾後端の波除鈑について

学研の「歴史群像 太平洋戦史 軽巡 球磨 長良 川内型」[1] (以下、学研本) や森 恒英氏の「日本の巡洋艦」[2]掲載の14cm単装砲砲盾の図面では、砲盾後端にやや反り返るような形の波除鈑が描かれている。
但し、実際には装備されていない写真の方が多いので、装備状況を調べてみた。

那珂の14cm砲と波除鈑: 1939年 (昭和14年)
最も早い時期に波除鈑が装備された艦の1隻である「那珂」。
砲盾後端の天面~側面にかけて、反りかえるような形状の波除鈑が判る。

最も早い時期の装備が確認できた写真は、1939年 (昭和14年) の「那珂」[3] で、次いで1941年 (昭和16年) の「阿武隈」[4]、1942年 (昭和17年) の「多摩」「木曾」[5] 、1943年 (昭和18年) の「名取」[6] と続く。少なくとも私が確認できた限りにおいて、1938年 (昭和13年) 以前の装備事例はなかった。

1943年 (昭和18年) の「名取」では同時期に撮られた複数の写真[7] から、船首楼装備の4番砲までは波除鈑があるが、艦首波を被らないためか、船橋楼より後ろの5番砲以降では波除鈑が装備されていないことが判る。
また、波除鈑装備が確認できた艦の所属鎮守府はバラバラであり、鎮守府単位での改修ではなく、軽巡全体、もしくは同砲搭載の艦艇総てへの装備訓令による改修であろう。

上記から考えると、竣工当時の軽巡各艦は14cm単装砲に波除鈑を装備していない
そして、舷外電路の装着などが実施された、1939年 (昭和14年) ~1941年 (昭和16年) の整備の際に、各艦の艦首波を被る位置の砲のみに波除鈑装備の訓令が出たものと思われる

また、波除鈑については、学研本の図面でも判る通り、天面後端の張り出しの有無で少なくとも2種類は存在するようだが、今回確認できた写真では、いずれの艦も天面後端の張り出しは無いように見える

「天龍型」の波除鈑の装備状況

「天龍型」については写真がないが、 「真実の艦艇史2」で田村俊夫氏が指摘されている、1942年 (昭和17年) の訓令による「天龍」の「一番砲盾波除装備の件」[8] から、以下の2点が判る。

  • 「天龍型」船首楼の主砲2門の内、波除鈑を装備する計画があったのは1番砲のみ。
  • 「龍田」には波除鈑の装備工事が訓令されていないことから、「龍田」の1番砲には既に波除鈑が装備されていた可能性が高い

こうした改修の常として、主力・前線部隊である水雷戦隊旗艦の「川内型」や「阿武隈」が比較的早く実施され、古兵の「天龍型」では、上記のとおり、開戦後もなお完了していない。

「天龍型」の主砲の製作

はい、製作! ここまで辿り着くのが長かった!!

上記および前回の検証に従い、「天龍」の主砲は全て折れ天蓋型の波除鈑なし「龍田」の主砲は全て折れ天蓋型で1番砲のみ波除鈑装備の状態にて製作する。

前々回の各社パーツの比較のとおり、ベースには、数少ない折れ天蓋型砲盾のパーツである「阿武隈」のものを使用した。

新PTの部品を見てしまうと、やはり砲身の太さが気になるので、砲身にはアドラーズネスト製の真鍮挽物の12.7cm高角砲砲身を使用
これにより、全長不足の件も解消し、一石二鳥である。
砲尾は円断面に近いものなので、0.5mmポンチで打ち抜いた円形プラ板を貼って表現した。
また、 砲身基部の防水布モールドがなかったので、プラ板から削り出して追加。

修正後の14cm単装砲と各社パーツの比較
目指すは3者の良いとこ取り! 砲身を細くするだけで、タミヤ「阿武隈」のパーツは大きく化ける。

砲盾は、後端の後傾部分を垂直に削り基本形を微調整。
上部のバルジと前面の照準口覆いは、ややモールドが大人しかったので、プラ板で作り直した。
また、旋回軸上に照準演習機据付用の基部があるので、0.3mmプラ棒で追加

前述のとおり、「龍田」1番砲の砲盾のみ、プラストライプ0.5mm幅で後端に波除鈑を追加

上記の加工を施したものと、各社パーツの比較。
基本的なバランスは既にキット状態でも整っている事が判ると思う。


といった訳で、意外と手こずった14cm砲だが、何とか形になった。
これが1隻4門の「天龍型」だから良かったものの、7門装備の5,500t級だと、どうしたものかと思う。

一部追加ならともかく全て作り直しとなると、ピットロードがこの速さでリテイクはしてくれそうにないので、頼みの綱はファインモールドのナノ・ドレッドかなあ。
失敗した際の予備も含め1箱8門入りセットで、不要な場合は波除鈑を削り取れる仕様だと、中々使い勝手も良いし、特設艦艇モデラーにも売れるのでどうですか、と、最果てのブログからこっそりお祈りしてみる。


参考書籍

  • 「『天龍』『龍田』」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ32 軽巡 球磨・長良・川内型』学習研究社、2001年、75頁 ^1
  • 森 恒英「50口径三年式14センチ砲」『軍艦メカニズム図鑑 – 日本の巡洋艦』グランプリ出版、1993年、200頁 ^2
  • 「軽巡洋艦『那珂』写真説明」70頁 ^3
  • 「軽巡洋艦『阿武隈』写真説明」『写真 日本の軍艦 第8巻 軽巡I』光人社、1990年256頁 ^4
  • 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、278頁 ^5291-292頁 ^6^7
  • 田村 俊夫「日本海軍最初の軽巡『天龍』『龍田』の知られざる兵装変遷」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ51 帝国海軍 真実の艦艇史2』学習研究社、2005年、93-94頁 ^8

全て敬称略。

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