「吹雪型」関連おすすめ資料12選 – ヤマシタホビー製1/700吹雪をレビューする: 後篇

ヤマシタホビーの「吹雪」レビュー最終回は、暫定版資料入手ガイド
総てを揃える必要はないが、幾つかあるとディテールアップに役立つし、キットの再現度をより深く楽しめるだろう

過去の記事では参考資料をウェブ系と書籍系に大別して紹介してきたのだが、今回は趣向を変えて、資料の傾向別に3つに分類してみた。
概ね、後ろに行くほど上級者向け。後ろの方は当然ながら (?) 私も使いこなせていない。


考証・研究系
資料を一旦咀嚼して情報を再構成したもの。
とりあえずどこをどうすれば良いか結論だけ知りたい、一次資料は難しすぎて見方が判らない! と云う人向け。

写真系
模型で主に視る事になる上面の情報が少ないのが難だが、側面のディテールを知るのに最も手っ取り早いのが写真集。ディテール重視派の人向け。

図面系
写真では判り辛い、各部の平面形が理解しやすい
公式図面の複写と、そこからトレース・修正を加えたもの、写真などからの想像図があるが、いずれも実物と異なるケースもままあるので盲信は危険

ヤマシタホビー「吹雪」製作用おすすめ資料 今回紹介する書籍の一部。文字ばかりの記事だと目が滑るので賑やかしである ()

考証・研究系

  • 1. Len『駆逐艦模型研究室』URL: http://ddmlabo014.wix.com/ddmlabo

    Len氏による、今年開設されたばかりの模型サイト。
    2015年 (平成27年) 8月現在、「特型」関連の考証記事と、タミヤ版ベースの徹底改修作例、ヤマシタ版のレビューが公開されている。

    資料編と工作編に分かれており、特に資料編の考証については高レベルでわかりやすい各部図解がなされており、初心者には一次資料の図面に直接触れるより判りやすい筈。

    作風は手摺を付けない引き算型のディテールアップで個人的には大好物。作品の見どころは、筆による船体側面の繊細な塗装表現。

  • 2. 老猿『海にあこがれる山猿』URL: http://rouenn.blog.fc2.com/

    艦艇考証系ブログの草分け。公式図面を基に独自の考察を積み重ねてあり、モデラー的には極めて有益。
    2015年 (平成27年) 8月時点では、「吹雪型」について3本の記事があり、個艦識別のポイントが図示されている

    特に、船首楼の長さについては、前出の駆逐艦模型研究室と併せて読むことでより理解が深まるだろう。

  • 3. 岩重 多四郎「日本海軍小艦艇ビジュアルガイド 駆逐艦編」2012年、大日本絵画、3,780円 (税込)

    模型誌連載の別冊で、2012年 (平成24年) 刊行のためヤマシタ吹雪についての言及はない

    「日本海軍小艦艇ビジュアルガイド 駆逐艦編」 特型24隻分の識別点リスト!

    だが、文字情報が主ではあるものの個艦識別についてはかなり充実しており、作り分けをしたい向きには強い味方となる筈。
    また、実艦の写真は点数こそ少ないが、性能改善後の「吹雪」「白雪」の鮮明な写真が掲載されており、「吹雪」の製作には格好の資料だろう。

  • 4. 田村 俊夫『歴史群像 太平洋戦史シリーズ70 完全版 特型駆逐艦』学研パブリッシング、2010年、絶版

    厳密には田村氏単独の著作ではないが、田村俊夫氏による戦時中の兵装変遷の記録と考証が95%位を占めている

    同氏の考証の常で、公式記録からの出典と複数証言からの裏取りが徹底しており、こと戦中の兵装変遷については、これ一冊でほぼ事足りる
    戦前~開戦頃の兵装については、さわり程度なので、大戦中~後期仕様で作りたい人専用の本と云えよう。
    古書のみの流通で、プレ値がついており概ね4,000~6,000円くらい。

写真系

  • 5. 『軍艦メカ 日本の駆逐艦』光人社、2012年、3,240円 (税込)
    『図解 日本の駆逐艦』光人社、1999年、絶版

    書名や判型が異なるが内容は同一で、「軍艦メカ」がB5判で「図解」がA5判。「図解」は古書流通のみで、プレ値がついており概ね3,500~4,000円くらい。
    ディテールに重きを置いた構成で、船体構造を除く細部の変遷を網羅してある。また、細部写真と共に図版も豊富で、考証系と写真系の中間的存在

    「軍艦メカ 日本の駆逐艦」 古い著作ではあるが、細部の形状把握のしやすさはピカイチ。

    一見、近年の刊行に思えるが初版は30年程前で、最新の考証とは幾らか食い違いが生じることを念頭に置く必要がある。とは云え、写真と図の併用で、写真だけでは判り辛い構造が感覚的に理解できるのは本書の魅力。

  • 6. 『写真 日本の軍艦 第10巻 駆逐艦I』光人社、1990年、3,775円 (税込)
    『駆逐艦 吹雪型「特型」(ハンディ判 日本海軍艦艇写真集)』光人社、1997年、1,646円 (税込)

    先の「軍艦メカ」同様、1990年代の刊行だが底本は約40年ほど前の「丸」の増刊まで遡るので、やはり考証は70年代~80年代頃のものであるのに注意。

    それを差し引いても内容は充実しており、多数の写真に加えて、行動記録や竣工~終戦までの装備改正の図解など文字・図版資料も充実しており、ハード面・ソフト面の絶妙なバランスでお得感は高い。

    B5判とA5判の棲み分けも「軍艦メカ」と同じだが、巻数の割り振りが変わっている。内容のバランスでは「軍艦メカ」よりおススメで、写真系資料でとにかく1冊、ならばこれ

  • 7. 『日本駆逐艦史 世界の艦船 1992年7月号増刊』海人社、1992年、絶版
    8. 『日本駆逐艦史 世界の艦船 2013年1月号増刊』海人社、2012年、2,365円 (税込)

    前出の「写真 日本の軍艦」よりハードウェア寄りで、写真も鮮明、巻末記事も詳細だが、行動記録や艦型毎の変遷は触れられていないので、これだけでは模型用資料として完結しないのが惜しい。
    新旧2版が存在し、旧版が1991年、新版が2012年の刊行で旧版は絶版。旧版は概ね2~3,000円前後で流通。

    フォーマットこそ踏襲しているものの、収録写真の重複は少なく巻末の記事は全て別物なので、両方揃えても損は無い。

  • 9. 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、絶版

    マニアの間ではその金額から「68K本」の異名を持つ、定価68,000円の大型写真集。
    値段相応に紙質・印刷とも良く、上記の写真集との重複カットも少ない。
    現在は古書のみの流通で概ね3万~5万円前後の相場だが、たまに外箱傷みやヤフオクの個人放出品などで1万円台で売られている事がある。

    「写真 日本海軍全艦艇史」 B5判の「日本駆逐艦史」と比べると巨大さが判る。物理的にも「大著」だ。

    「吹雪型」の為だけに買うには高い買い物だが、質・量とも日本艦艇写真集としては最上級なので他の色々な艦も作る予定があるなら買って損はなし。

図面系

  • Len『駆逐艦模型研究室』URL: http://ddmlabo014.wix.com/ddmlabo

    コンテンツは前述のとおり。ヤマシタ「吹雪」のレビュー記事に、Len氏作図による性能改善後の「吹雪型」の上側面図が公開されている。

  • 10. 『歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦』学習研究社、1998年、絶版

    性能改善工事前の「吹雪型」の状態を示す「深雪」公式図面の上側面図複写が掲載されている。

    「歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 特型駆逐艦」 絶版ではあるものの、2015年現在、最も入手性の良い「吹雪型」公式図面複写。

    図面以外の内容は、先の「完全版」と異なり、写真、コラム、戦記と、ソフトからハードまで浅く広く網羅したライト層向けの構成で、表題は「特型」だが実際には「峯風型」系列を含む初期の艦隊型駆逐艦各型と水雷戦隊旗艦となる軽巡が対象。
    古書のみの流通で、概ね1,500~2,000円くらいで流通している。

  • 11. 日本造船学会『明治百年史叢書242 昭和造船史別冊 日本海軍艦艇図面集』原書房、1975年、絶版

    公式図面の複写図面集で、缶室吸気口を「綾波型」同様の椀型に改正した「改吹雪型」の「浦波」の図面を収録

    上側面図に加え主要断面図も掲載されており、「特型」の特徴たるタンブルホームとフレアを組み合わせた船型がよく判る。

    古書のみの流通で、5万~10万円位の相場なので手軽には入手し辛いが、たまに古書店で出物が有る。私は、数年前に箱焼けで1万円になっていたのを入手した。

    前述の68K本もだが、大き目の図書館に蔵書されている事も有るので、古書を買う前にカーリルローカルで検索してみるのがお勧め

  • 12. 『靖国偕行文庫』東京都千代田区、URL: http://www.yasukuni.or.jp/archives/

    東京の靖国神社内にある戦史系図書館。

    公式図面の複写図面集を多数所蔵。「吹雪型」では、「初雪」「深雪」「白雲」「浦波」の各部図面と、「吹雪型」共通の測距儀・双眼望遠鏡据付図が所蔵されており、閲覧は無料、有料でコピー可能

    図書検索の書名欄から「*遠藤資料**軍艦原図集**白雲*」の様に入れると当該図面がヒットする。*白雲*の部分を任意の艦で。

    質、量ともに充実しているのだが、閉架書庫に収録されており、同時閲覧は3点まで、しかも、都度手書きで申請書を出す必要が有るので、閲覧までに普通の図書館よりかなり時間を取られることに注意。
    また、コピーも職員の方に依頼する形なので、閲覧とは別に申請書記載が必要。具体的な流れや注意点はMOMOKO120%氏の「模型の缶詰BLOG出張所」の記事が役立つだろう。


90年代以前は図面の流通も限られ、各部の変遷も専ら古典の「軍艦メカ」頼みだったのだが、今世紀に入ってから遠藤資料の靖国寄贈や、岩重氏や田村氏などの福井氏系以外の研究家による著作の刊行、そして「駆逐艦模型研究室」の登場と、一次資料から模型用まで「特型」製作に役立つ資料は急速に充実してきた。
また、アマゾンを筆頭とするネット書店の隆盛で、地方でもマニアックな書籍が比較的簡単に買えるようになったのも追い風である。

そうした流れの中で1/700模型だけが永らく決定版を欠き、駆逐艦モデラーを悩ませていたのだが、今回のヤマシタのキットの登場で欠けていた最後のピースが埋まった感がある
今回は、初心者~中級者向けに比較的入手が容易なものに絞って紹介したが、僅かながらもコダワリの「吹雪型」を作るための契機になれば幸いである。

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