クレーンの「エッチングパーツ臭さ」を抜いてみる – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 5

船体中央部にある1対のクレーン、豪華版キットにはエッチングパーツが付属している。こう云ったトラス構造の部品はフォトエッチングの最も得意とする表現だが、その一方で随所に薄板を組み合わせるが故の表現の限界も目立ってしまう。そこで今回はそうした「エッチングパーツゆえの弱み」の部分に着目し、自然に見せる工夫をしてみようと思う。


合わせ目を埋める

個人的に、エッチングパーツで一番気になるのがコレ。
箱組のカド部分に最低1か所は合わせ目が来るのは避けられないのだが、メーカー見本写真などでもそのままにしてある例が散見される。
実際、これを埋めるのは面倒だし、引きで見るとほぼ見えないのだが、逆に言えば寄ってみたとき「いかにもエッチング組みました」となるポイントでもある。

ここは奇を衒うことなく、地道にゼリー状瞬着と溶きパテで消し込んでゆく地味、ひたすら地味な作業。とはいえ、下の写真くらい寄るとエッジの合わせ目が無いだけでエッチングの箱組感が薄らいだのがお判りいただけるだろう。

フライホーク製「プリンス・オブ・ウェールズ豪華版」のクレーン合わせ目の修正写真右半分が合わせ目処理が終わった状態、左半分が処理中。このエッジに来る合わせ目がどうにも気になってしまう。

下段アームに厚みをつける

「キング・ジョージ5世級」のクレーンは上段の箱状のクレーンアームと、下段の板状のアームの2段で構成されている。
下段のアームは構造材が少ない分、外枠部分に太めの鋼材が用いられており、写真でもその差は明瞭だ。

「プリンス・オブ・ウェールズ」: 1941年4月
パースの所為で判り辛いが、上段と下段の分岐部分のあたりをみると、下段アームの枠材は上段のそれの倍くらい太いのが判る。

本来、エッチングパーツの強みはプラパーツでは再現しえない薄さ・細さの表現なのだが、板厚方向については元の板厚以上の表現が難しいと云うのが表裏一体の弱点としてある。フライホークの「プリンス・オブ・ウェールズ」に於いてはこの下段アームがそれで、上段アームでは板厚がスケールなりの最適表現になっているのに対し、下段は明らかに貧弱である。

例えばここをエッチング2枚重ねにしてしまえばより正確な表現になったのであろうが、トラスを全くズレずに貼り合わせようとすれば組立難易度は跳ね上がる。組みやすさとのバランスを鑑みれば、キットの表現は適切であろう。ここから先はユーザーの領分である。

フライホーク製「プリンス・オブ・ウェールズ豪華版」のクレーン下段アームの修正奥のキット素のままの下段アームは繊細ではあるものの、いかにもエッチング一枚板然としており、上掲の実物の印象からは遠い。

と云う訳で、今回はエッチングパーツの外枠部分にプラストラクトの0.3mm角棒を貼り、キットのトラス表現は活かしつつ側面から見た厚みを増している。

角断面のワイヤーを置き換える

「キング・ジョージ5世級」のクレーンは上面に沿うようにワイヤーが走っており、エッチングパーツでも再現されている。ただ、エッチングの宿命で本来円形のワイヤー断面が四角く、またワイヤーを走らせる滑車部分も同じ板厚ゆえにメリハリに欠ける。
そこで、ワイヤー部分をメタルリギング、滑車部分をエバーグリーンの丸棒の輪切りに置換え、厚みにメリハリをつけた。

フライホーク製「プリンス・オブ・ウェールズ豪華版」のクレーンワイヤーの修正写真が下手でピントが合ってない。横から見たときの印象は大して変わらないが、前後方向から見たとき滑車とワイヤーの幅が明確に違うと立体感が出る。あと写真が下手。

あと、上段アームの山型の頂上部分は滑車を覆うようにフレームがついているのだが、キットでは省略されているのでプラ棒で追加した。

「プリンス・オブ・ウェールズ」: 1941年12月
不鮮明ではあるが、滑車の上を横に走るフレームが判る。あと、前述の上下アームの枠材の太さの差も見て取れる。


エッチングパーツはその強みが判り易いがゆえに、良くも悪くもエッチング部分だけが目立ちがちである。
こと近年の艦船模型界隈に於いては繊細さ・細密さを殊更貴ぶきらいがあるが、逆に肥らせる方が実物の印象に近づく、と云う場面もままあるのだ。
実物に似せようと思ってエッチングパーツを使ったのに何故か実物の印象に近づかない、と云う場合、本稿で触れたような要素に着目してみると幸せになれるかもしれない。或いは、そこにあるのは沼かもしれんけど!


写真引用元

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