ふたたび、ワンデイモデリング反省会 – 1/700で砲艦橋立をつくる

ふたたび、ワンデイモデリング反省会 – 1/700で砲艦橋立をつくる

ツィッタァ上の早組み企画でワンデイモデリングに挑戦して、案の定ワンデイで完成しない、と云うのは私にはよくある事(……)なのだが、以前のP-40の時のように久々に敗因を分析してみることにした。今回のお題は艦船模型、アオシマの砲艦「橋立」である。
比較的新し目のキットで、小型ゆえに部品も少ない。これは負ける要素は無いのでは? と思いきや……。


ここで考証を持ち出し始めると、到底1日で終わらないのは明白なので、基本的にスタイルは弄らず、手癖で出来るディテールアップと市販アフターパーツの置換えに絞って早期完成を目指すこととする。

梯子に翻弄される1日目

まずは1日目。

具体的には、ナット埋めと反りの修正で1時間弱、舷窓開けで1時間半、舷外電路処理は舷窓開け後の船体表面均しついでなので、ほぼ時間に含まれない。
ナット埋めは乾舷が低い「橋立」の場合、上甲板に干渉するのでどこでもお好きなところに、とはゆかず、位置決めに手間取った。ここに迷いがなければ、20分くらいは縮むかもしれない。反りの修正は曲げて削っての繰り返しなので、どうにもならん。
舷窓は片舷で50個強、両舷で100超えるので1個抜くのに1分弱と思えば、ここもあまり短縮の余地は無さそう

続いて、錨甲板モールドの再構築で1時間。これは手間対効果を考えれば妥当。
そして、ここからが問題。

この工程で約4時間。考証は深追いしないと云いつつリノリウム解釈を弄っているが、実はこれはあまり時間かかってない。精々30分。殆どの時間は両舷の梯子に費やしている。

「宇治」の前甲板: 1942年(昭和17年)9月
補足。同型艦「宇治」の機銃甲板。キットでは1mm間隔くらいで押さえモールドが入っているが、写真では一般的な1.8m=1/700で2.6mmピッチに見える。

最初は市販のエッチング梯子を試みたのだが、幅が広すぎて両舷の舷窓に干渉してしまうためにボツ。仕方ないのでハセガワトライパーツの0.42mm角メッシュから切り出している。

ちなみに、森恒英氏の「軍艦雑記帳」によれば、直立梯子の寸法は踏板の間隔が350mm、すなわち1/700で0.5mm。横幅は200~300mmで1/700ならば0.3~0.4mmとなり、トライパーツのそれは汎用正方形メッシュの中ではかなり直立梯子の寸法に近いのである。

話が逸れた。

手順としては、金属用ニッパーで一列分を切り出し、両側面の切り口をヤスリで削って均すだけなのだが、とにかく削ってる最中に紛失しやすいし、接着しようと摘まんだ際も紛失しやすい。1本作るのに平均して7~8本分くらいは失くしている。今回は両舷なので、合わせて十数本(流石に数えてないが)、仮に15本に3時間とすれば1本あたり12分のペース。作業中の感触としては確かにそんな感じ。

ここは舷窓の位置をズラして前述の幅広の梯子を使うか、削り落としたものは仕方ないと省略すべきだった。それだけで3時間は短縮できた。

まずいのは、この時点では梯子が大きな遅延要素だと自覚していないこと。「たまたま紛失が続いた」ので余分に時間が掛かってしまった、くらいに思っている。
実際、前述の計算では、一度も失くさなければ両舷一対で30分と掛からない。が、私に限ればそんなことはあり得ないのである。

故に、その後も梯子自作を続けてしまい、構造物2か所の4本の梯子+プラ棒からの扉切り出し+リノリウム彫り直しで4時間費やしたあたりで漸く「梯子ヤバいな……」と気付くが、既にこの後、省略できるような梯子はないのであった。多分、ここでも梯子省いてたら2.5時間くらいは短縮できている

但し、この工程では烹炊室天面の写った写真を探したりして数十分寄り道しているので、必ずしも梯子ばかりが戦犯ではない。この日、約13時間作業していたが、全正解ルートなら8時間くらいでここまで辿り着けたかもしれない。

疲労で判断力を喪う2日目

そして2日目。

一晩寝て頭がリセットされた所為か、この辺りの割り切りはベストな選択だったと思う。

金属線と較べたときのプラ製の利点は、接着時の微調整の容易さと接着強度の堅牢さ。一方、欠点は長尺になるほど反りが不可避になることと、経年で反りが出ること。また、0.3mm未満の径の市販品が無いこと(プラストラクトの0.3mm丸棒は実測0.26mmくらいなので、実際にはここが下限)も人によっては欠点かもしれない。

今回の場合、前後とも三脚楼ゆえに構造上反りが抑制されるため、ほぼプラ製の欠点が抑制される。後檣は0.2mm伸ばしランナーで出来ないことはないのだが、主柱用の反りのない一本ものを作るのにどうしても試行回数が増えざるを得ないため、今回は妥協した。多分、時間を気にしないなら、1時間くらいひたすら伸ばしランナー作ってれば1本くらいは真っすぐな0.2mm径の良材が採れたと思う。

一見、妥当な判断に見えるが実際には手際が悪かったところ。単装高角砲はナノドレ砲架にキットの盾、連装高角砲は砲身のみナノドレ置換しているのだが、手数を減らそうとした結果砲身の角度が不自然になってしまった。ここは、一旦キットパーツのみで組み上げた後に砲身を切り取って差し替えた方が奇麗に仕上がったし、微調整要素が無い分だけ時間も短縮できたのではないか。とは云え短縮できたとしても1時間程度か。

眠すぎてツィートでは省略してしまっているが、サフ吹き・傷埋めの最中に艦橋のエッチング窓枠を破損してしまい2時間ほど修復。短艇ほか小パーツの切り出し・ゲート処理で約1時間半、木甲板と鼠色の吹付で約2時間費やしている。

反省点は2点、まずは艦橋窓枠。普段はエッチングの接着強度を得るため、プラパーツ側の窓枠下端に隠れる位置に「接着しろ」をプラ棒で追加しているのだが、それを省いた結果、表面処理中に軽くヤスリを当てるだけで外れてしまうようになってしまった。30分程度の手間を惜しんだゆえに、2時間失っている。

もう1点は塗料の希釈。鼠色はMr. カラーの607番、護衛艦用のN5を瓶生で吹いているのだが、瓶に薄め液を入れ過ぎてしまい、何度吹き重ねても色がつかず、しかも異常な光沢面になってしまった休憩不足による注意力の低下である。本来の希釈濃度なら全パーツ塗り終えるのに1時間掛かるかどうか、くらいであろう。

高角砲処理に手間取った夕方ごろから明らかに注意力の低下が目立っており、それが終盤の塗装に至って最悪の形で表れてしまった。完成を焦らず適度な休憩を挟んでいれば、却って3時間以上は短縮できたのではないか、と思う。

労働のあとの3日目、そして完成へ

ここからは仕事の日なので作業時間が細切れになる。何故か作業中はフラットベースを入れて塗る、と云う発想がなく、フラットクリアを吹いた時点で気付く始末。序盤にフラットベースを入れてれば多少発色が判り易くなって作業性が上がったかもしれないが、まあ誤差の範疇。

ラスト2日、この辺は特に問題なく、ウェザリング~最終組付け~クリアコートまでで3時間くらい。ウェザリングとクリアコートは省こうと思えば省けるが、それで1時間以上変わるかと云われれば微妙なので時間対効果を鑑みればやっておくべき。

上記の短縮しえたかもしれない要素を全て出来ていれば、-8時間で延べ24時間……これ、どう頑張ってもワンデイ無理なやつだ! あとは舷窓開けを省けば1時間以上縮むかもしれないが、このキットに限ればモールドが薄いため、スミ入れが綺麗に入らず結局時短にならないかもしれない。

結論、どんなに頑張っても艦船模型には2日以上掛る

まあそれはそれとして、一週間足らずで作った割には、模型としてはそこそこの見られるものになった気がする。
更に考証的に詰めていくとしたら、甲板敷物の配置と、左右対称になっている上構モールドの検証だろうか。船体形状については公式図面の類を見たことが無いので何とも云えないが、少なくとも光人社の「日本の軍艦」記載の船体寸法とは一致しており[1] 大きな誤りはないのではないかと思う。

余談2題

余談だが2013年発売のこのキット、ちょうど現代的フォーマットへの過渡期だったようで、モールド表現などは最新キットと較べても遜色ない精度なのだが、軍艦旗のデカールはなく懐かしの窓枠と一緒に印刷された「紙シール」である。流石に砲艦には大きすぎるので、以前、作例用に作っておいたコンビニプリンター製の自作軍艦旗に置換えている。

紙シールの代わりにコピー用紙かよ、と思われるかもしれないが、裏面を薄く剥いで二つ折りにするとデカールほどではないがそれなりにスケール感のある薄さになる。はためかせてしまえば、殆ど厚みは気にならない。

コピー用紙の軍艦旗
シールの裏紙を剥ぐ感覚で、断面からナイフの刃を入れて裏面を剥ぎ取る。

コピー用紙の軍艦旗
貼り合わせの際、瞬間接着剤を用いると写真下のように染み込んで変色してしまう。セメダインハイグレード模型用で貼り合わせ、生乾きの状態で癖をつける。

コピー用紙の軍艦旗
手持ちにあった駆逐艦サイズを使ったが、「宇治」の写真を見ると実際にはこの半分くらいのものを掲げていたようだ。断面部分を赤の極細ペンなどでタッチアップすると、より目立たなくなる。

余談その2。ツィッタァ上で茶月水堂氏に教えて貰った、3Dプリント品のループアンテナ
今まで、エッチング、金属線、伸ばしランナーとどれもモノにできず、プラ板の切り出しに落ち着いていたのだが、1本作るのに数時間コースで精度的にも時間的にも納得ゆくものではなかった。さりとてアンテナゆえに「周りに遮蔽物のないところに据えるのが原則」であり、ムクのプラパーツではどうにも悪目立ちしてしまう。1セット数百円で大量に単一パーツが入ってるので、私のように失敗・紛失がデフォのボンクラにも優しい仕様だ。

3Dプリント品のループアンテナ
仕上がりは御覧の通り。ここまでに数本紛失・折損してしまったが、それでも10分ほどで施工終わるのが素晴らしい。

おなじく艦尾信号燈。これは今まで、ファインモールドの0.9mm角メッシュを切り出して使っていたのだが、これも時間的にはかなり改善。

3Dプリント品の信号燈
小艦艇に使うには若干オーバースケール気味なので、これは従来のメッシュ方式とモノによって使い分けかな。


このワンデイモデリングのルールでは、10時スタートの23時終了で、仮に食事中断を2回4時間とすれば実質7時間である。塗装~最終仕上げを今回と同ペースかつノーミスで行えばほぼ7時間であり、そもそも素組全塗装でも間に合わない。すなわち、今後、塗装や最終組み上げ、仕上げ部分で画期的な時短方法を見つけない限りはワンデイモデリングは成立しないのが判った。

なんだか残念な結論だが、商業作例などの明確な〆切がある作業の場合に何を優先すべきか、と云う見切りの目安が得られたのは収穫である。また、物理面では、エッチングメッシュ法に代わる、妥当なサイズ感の梯子を探しておいた方が良さそうだ。

そして何より、如何に気分が乗っていようと、実際の集中力には明確な持続上限があるので、適度な休憩が結果的な時間短縮につながるのが数値化されたのは大きい。もはや身体能力が衰える一方の年頃ゆえ、「自分の肉体を過信しない」と云うのは、ゆめ忘れてはならぬのだ。

フルスクラッチの「嵯峨」とアオシマ「橋立」
10年前にスクラッチした「嵯峨」とツーショット。やはり工作精度は10年前の方が高かった。


写真引用元

  • 『歴史群像 太平洋戦史シリーズ51 帝国海軍 真実の艦艇史2』学習研究社、2005年、40頁

参考書籍

  • 『写真 日本の軍艦 第9巻 軽巡II』光人社、1990年、246頁 ^1

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